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生原稿をめぐる望見

タイトルが他のブログのものとかぶった。でも、どーしても『羊をめぐる冒険』とひっかけたいのでこのままGO。

村上春樹の昔の生原稿が、編集者によって流出したらしい。
こーゆー場合、刑法の盗品等に関する罪の対象になるか、それから民法193条の、即時取得に関する例外にあたるか(今回は期間制限に引っかかるようだが)を決する上で重要になるのが、生原稿の所有権は誰にあるかだ。
まず、原稿ができた時点での所有権は、作家にある。
作家は編集者に原稿を渡すが、ここの法的意味合いが問題になる。
ふつーに考えて、雑誌に載せるために原稿を渡すわけだから、譲渡意思はなく、せいぜい寄託、となりそうだが、実態はもっと複雑ビミョーだ。
俺も詳しいわけじゃないけど、大体、原稿を渡した時点で、それが雑誌に載るかどうか決まっていない場合はざらだ。載るかどうかは編集者の腕次第、という面も多分にある。少なくとも準委任の性質をもつと考えた方がいい。
また、作者と編集者の信頼関係が厚ければ、この原稿をどう使うかは編集者に任せる、という、信託的な意味合いの場合もある。「この原稿を、あげる」という言い方がなされる。
信託だと、法律的には所有権は移転する。
推測だが、今回のこの編集者は、処分原稿については、信託的にとらえていたのだろう。
まあ、信託でも、その契約にそった管理がされなければならず、それに違反していることは確かだが。

原稿の所有権は作家にある。
と、言い切れれば良いし、言い切りたいのもやまやまだが、この辺、出版社と作家とのビミョーな綱引きが関わってくる。村上春樹ほどになれば、俺の物だって胸張って言えるけれど、稼ぎの悪い方になるほど歯切れは悪くなる。
そおそお、クリエーターの著作権だってそうなのよお☆なぜかオカマ口調になっちゃうけどお、二束三文でいろいろ一方的な制限がどどーんと課せられるの。発表の制限とか、著作人格権の不行使とかね。もー、信じらんなーい。作ったのはアタシなのよ、ア・タ・シ!

口調を戻して、と。
法律的なことを完全に別扱いして語れば、研究者としては、推敲の跡が残っている生原稿は貴重な資料だ。
初期の原稿は、作者の手に戻ったら、90%焼却されてしまうだろう(戸棚の奥から、中学時代に書いたポエムが出てきたと思いなせえ)。
作者の利益、出版者の利益、研究者の利益。
文化の発展のためには、どれをどの程度重視してどう調整を図るべきなのか。
実はいろいろ大変なのよねー。(あ、またオカマ口調に・・・)
Commented by かとう at 2006-03-10 21:58 x
私の家にも何故かK本薫の中の人の生原稿とかあるわけですが、別にこんなもん売り払って銭ほしいわけでもなく、正直処分に困ってます。例によって編集の課程のエアポケットに入ったものが何十年か立って私の手元に流れ着いたわけですが、はっきりいってババ札ですよこんなもん。母校の国文科にでもまとめて寄付しちゃったらそれでも因縁つけられますかね。
Commented by k_penguin at 2006-03-10 22:24
どーですかねえ。
K本薫の中の人はW大とあまり仲が良くないとか聞いた様な気がしますからねえ・・・。
文章は上手い人ですよね。この人の文芸評論は好きです。2冊しか読んでないけど。
Commented by かとう at 2006-03-11 07:54 x
昔はキレまくってたんですよねN島Aさん。なんかネットやりだしてからGインサーガも失速しちゃって悲しいなあ。N島さんの評論はほとんど読んでますよ私は。
Commented by k_penguin at 2006-03-11 11:25
何かいろいろやってるし、いろいろ言われてるみたいですね、あの人。
まあ、良い文章は書いてるんで、ワタシはそれ以上のことは関知しないですが。

>N島さんの評論はほとんど読んでますよ私は。
いいなあ。
評論って、読むの疲れるからなかなか読めないです。
最近はマンガもほとんど読んでない・・・。
Commented by かとう at 2006-03-11 13:39 x
私は法律とか読めないんですよ・・・
Commented by ハラキリ at 2006-03-15 14:22 x
いやぁ、でも、すごいことですよねぇ・・・どのぐらいの価値がでるんだろ?春樹はキャラ的に、あんまかかわりたくなさそうな気もするけど、こういったさわぎに
Commented by ハラキリ at 2006-03-15 14:26 x
むしろ今回の文藝春秋でさえ価値がでそうな気がするのは俺だけですか?こないだでた外国の春樹の活動を伝えるクリなんとかって雑誌も、すでにアマゾンで高くなっているし、少年カフカも高くなっていた
Commented by k_penguin at 2006-03-15 17:07
ハラキリさんコメントどーもです。
そちらのブログの細木数子の付け乳首の話、バカでいーですねー。

春樹はけっこう社会的な発言もしますよ。
なんか40過ぎたらそーゆーこともしなくちゃかなと思った、とゆーよーなことをどっかに書いてました。昔。
今回は春樹のような「大物」じゃなければいえない話だから、 言ったんだと思います。
ダウンタウンが吉本のえらいさんに金銭的な待遇について文句をいうようなもので、自分を先例にして、他の同業者の待遇もアップさせようという狙いも入っていると思います。
Commented by かとう at 2006-03-17 08:09 x
自分のものと思うのなら、きちんと自分で管理しといてもらわないと・・・・。これって善意の第三者に渡った時点で春樹ちゃんは取り返せなくなってますよね?
Commented by k_penguin at 2006-03-17 10:59
編集者との信頼関係なければ作品の発表はできません。
編集者は作家と出版社をつなぐ掛け橋です。編集者がいて始めて「作品」が「商品」になります。
編集者には商品を管理する義務があると思います。

盗品に関しては、即時取得の特則があり、盗まれてから2年の間は取り返すことができます。(民法193条)
今回は2年は過ぎているようなので、取り戻すには買取りと言うことになるでしょう。
Commented by かとう at 2006-03-17 23:00 x
でも、春樹ちゃんが売り渡したのはこの場合、文字列であって、生原稿は当時は梱包材みたいな感覚だったのでは。あとから梱包材に価値がついちゃったんで揉めているみたいな・・・
Commented by k_penguin at 2006-03-17 23:35
かとうさんがおっしゃっているのは、多分、原稿はその書いてある内容が大事なのだから、写植作業が終わった以上、原稿は用済みのゴミになるはずだ、という意味かと思います。
しかし、原稿は作家にとっては主観的な価値があります。編集者が原稿をどこかに無くしたりしたら、それは作家との信頼関係の破壊の原因に十分なります(データ入稿ならまた別かも知れませんが)。
また一部の原稿には、市場で価値あるものとして扱われていますし、編集者もそれを十分知っているはずです。
編集者は、原稿をを作家のために管理する義務があると思います。
法律的に言えば、準委任に基づく善管注意義務がある、とゆーことです。
Commented by かとう at 2006-03-18 09:08 x
一番良いのは、最初に契約書で生原稿の扱いまで取り決めておくことなんですよねえ。出版の世界ってそういうのやらないのが格好いいみたいな勘違いがありますからねえ。
Commented by k_penguin at 2006-03-18 10:00
まー、契約書で何でもかんでも決めておくっていうのにも良し悪しありますからねえ・・・。
Commented by (^N^)(^J^) at 2006-03-22 04:26 x
基本的に村上春樹の主張は正しいのですが,今回の『文芸春秋』の記事に関しては何やら割り切れないものを感じていました。こちらの記事とコメント欄の議論を読んで,その割り切れなさの一端が見えてきたような気がします。この件に関して私が共感できる数少ない記事のひとつです。
Commented by k_penguin at 2006-03-22 12:46
お役に立てたようで嬉しいです。
この件に関していろいろ書かれているようですね。
一筋縄ではいかない難しい問題だと思います。村上春樹があえて厳然とフェアな立場を貫いたのもその辺を考慮したのでしょう。

なお、漱石に「セクハラ発言」が多いのは時代の流れというだけでなく、彼自身の幼少期のトラウマに関わるなんかがあるらしーです。三浦雅士にそんなことが書いてありました。
みんないろいろじじょーもちですねえ。

やれやれ。
by k_penguin | 2006-03-10 17:56 | エンタテイメントと法 | Trackback | Comments(16)

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


by k_penguin