『うるう』03 血と責任

まず、あらかじめ断っておくが、この記事は「うるう」02で紹介した話を前提として解釈をする。
まじるとよいちが父子という、話の中ではそうなってない設定で決め打ちしちゃうのはどーかなー、とも思ったのだが、
自分の中では完全にそれ前提の思考になっているので、無理をするよりも、当ブログのスタンスとしてそれで行かせていただくことにする。

んで。
「親子の別れ」を描くにあたって、なぜああいう表現をとったのか。
ということについて考えてみた。





あの話の1番の特徴は、父子関係を明かさないことであるが、
このことによる利点は
1 父親の務めを果たせなかったことを明かさなくて良い。
2 母親(妻)の描写が不要。
3 他人同士の関係である「友情」の成立を説明しやすい。
ということである。

それに対応する弱点は
1 自分がなぜ「近づいてはいけない者」なのかの説明を作らなくてはならない。
2 「よいちに近づいてはいけない」と命じる人を設定しなければならない。
3 なぜまじると友達になりたかったのか説明しなければならない。

この3点をしっかり詰めていればお話としては別に問題はないのだが、実際にはこれらが話の中でどう解決されたかというと。
1 「うるう」で成長スピードが遅い「余り1」だから。
 それ以上の説明なし。
 多分、穢れた存在だというニュアンスなのだろうが、残念ながらあまり「穢れ」感はない。よいちの銀髪は綺麗だしね。
2 まじるには学校の先生が森に近づいてはいけないと命じる。理由は不明。
 「理解できない不合理な禁忌」(いわゆる差別などを思わせる類の禁忌)という扱いですらなく、雰囲気的にオカルトチックなものかな?と感じる程度。しかもまじるはその命令を気軽に無視。
 よいちにはグランダールボが命じる。理由はよいちが「うるう」だから。(人間よりも植物に近い存在だから?)
 客には冒頭でスクリーンで設定として提示される。(設定なのだから疑問を持ってはいけない、との意をくんでやらねばならない。やれやれ)
3 2月29日生まれで、かつ、その他大勢に含まれないという点が共通するから。
 他にも2月29日生まれは居そうなものなのに、別に探したりはしない。


・・・余りにも雑な解決方法なので、俺はしばらくやる気を失った。

しかし、気を取り直して。
考えてみよう。

雑、ということは、作者が本気で隠すつもりはないということだ。
しかし、気がついて欲しいと積極的に思っているわけでもない。
雑だということは、作者が重要なことではないと見なしたから、と考えるのが1番自然だ。
描写が厚い部分、つまり「別れ」「疎外」「孤独から脱出する希望」が重要なのであって、
友情とか他人の立場とかはどうでも良いのだ。
それは完全に自分中心の表現だ。自分の目にどう映ったか、ということを映ったように再現する。
ちょうど、虫の目を通した映像を複眼レンズで表現するのに似ている。

霧がかった暗い森は精神世界。
そこでは心に映るとおりに物事が出現する。
自分が認めたくない事実は無いものとされ、自分の心に嘘をつけば、嘘がそのまま出現する。
当然、話はねじれてゆく。しかし、それに構っている余裕はない。

 こんなひどい僕だけど、受け入れて。

 と、いうこと。

ってことは、

 表現を向けている相手が、観客だということ。



これは新しかった。
いままで、彼の作品については名宛人は観客以外にいて、観客はせいぜい2次的な客に過ぎなかったから。
しかし、あらためて考えてみればもっともな話だ。
最早、他の「客」は全員いなくなってしまったのだから。
消極的に観客が「客」と決定されたのだ。(あとまだ「スタッフ」という手もあるが)

これはいろんな意味で、かなり危ない状態ではある。
客に対する態度としても、彼自身の精神の安定という意味でも。
霧や靄をイメージする「銀色にも見える白」がよいちのカラーなのも、心が輪郭を失いはじめている証かもしれない。
・・・しかし、ま、それはそれとして。
話を戻す。

結局求められているのは、「批判ぬきの受容」だ。
今まで求めてきたことが、客相手にも求められているのだから。
端的に言って、以下のような感想が、求められているところかと思う。

「どこが良いのか説明できないけど、とても良いと思う。」
とか。
「なぜだか分からないけどすごく泣いた。感動した。」
とか。
そんな感じ。

それは作品を見ずに作者しか見ていない証のような言葉であり、
きわめて容易に以下の言葉に転化する性質を持つ。

「どこが良いのかまったく分からない。なぜ良いと思ったんだろう。」
「なぜ泣いたりしたんだろう?どうかしてたよね。」
などなど。
要するに飽きて心が離れてしまうのである。
で、それも防止できそうな最強のセリフがこれ。
「観すぎて考えがぐるぐる回ってしまっているのす」(「アトムより」)

そのようなかりそめの言葉に頼るのは危険である。
しかし、責任という概念が心の中にない彼のやり方としては、それくらいしか
つまり他人のご厚意にすがるしか方法はない。


父親の実験の犠牲となってよいちは4年に1歳しか年をとらない体質になった。
しかし彼は父親に対し恨み言一つ言わず、穢れた自分を「うるう」だと責めるばかり。
でも彼は、本当は自分が穢れているなんて思っていない。自分の血を引くまじるに望みを託しているのだから。
よいちとまじる。
「良い血と混じる」。

けれど彼が悪くないのなら、
「彼を受け入れなかった誰かさん」に対して責任を問わなければならなくなる。
それを避けるためには「責任」の概念自体を拒否するしかない。
だから彼の作品の中には「責任」の概念が無く、誰も誰かを責めたりしない。
無条件に受け入れるか、無条件に受け付けないか。
そのどちらかだけ。

僕には「貸し」がある。
その支払いをいただくまでは、がんとして「責任」を受け付けません。

彼の心は、そう言っている。

おまけ 戸川純 蛹化(むし)の女
「うるう」を観てない人は、絶対見ちゃダメだよ!責任取らないからね!

by k_penguin | 2012-01-10 21:30 | エンタ系 | Trackback | Comments(10)
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Commented by arancio at 2012-01-12 00:21 x
こんばんは。

ラスト近くよいちが「まちぼうけ」をまっすぐに歌い上げるのを観て、その時は演じ手としての覚悟のようなものを感じました。私はこの歌で『うるう』を全面的に受け入れてしまった気がします。私にとっては、あの歌が「表現を向けている相手が、観客だということ。」だったのかなと思えてきました。
Commented by k_penguin at 2012-01-12 00:53
あの「まちぼうけ」は
本人の気持ちが入ってるのは分かってたし
ずっと人目を避けてきたよいちの初めての
「僕はここだよ」という主張であるのも理解はできるのですが、
ワタシには正直言って、
何か、無理をしているっぽい様な気がして
ちょっと素直に受け止められませんでした。

小林さんは「気持ち」がとても強くて、どうしてもそれに押されてしまうんですが、
気持ちだけではどうにもならないこともあるし
それがあの話の壊れ具合に現れているように思うのです。
Commented by arancio at 2012-01-12 01:27 x
気持ちだけではどうにもならないし、美しさだけでもどうにもならないですね。

いろいろ危機感を持ってたつもりですが、歌でうっちゃられました。
チェロの生演奏に、パッヘルベルのカノンときては、「蛹化の女」が大好きだったのもあり、心臓をつかまれたような感じ。そういえば、最初のポツネンのラストもそんな感じでした。
Commented by k_penguin at 2012-01-12 01:46
戸川純知ってる人は絶対「蛹化の女」思い出しますよねー。

ワタシ的にはチェロの音がまじるの声で、
だからまじるが森の中を歌いながらよいちを探している、というつもりで観てたから
頭の中で、まじると戸川純と小林さんが大合唱始めちゃって
大変でしたよ。

Youtube,記事に貼り付けました。
頭に残る歌だから
見る人は覚悟してね。
Commented by arancio at 2012-01-12 14:45 x
戸川純と小林賢太郎の大合唱!それは大変。
聴いてみたいような、聴きたくないような。
私の場合、具体的なイメージというよりパッヘルベルのカノンを聴くと「切なさ」だけがぶわーっときます。作者の狙い通りかもしれません。

改めて歌詞の内容を考えると、月光、林/森、待つ人、って揃ってますね。
想ってるだけで何もしない、でも気づいて欲しい、気づかないのだったら忘れてて欲しい。たぶん忘れられたのなら自分は傷つかない。

野菜を育ててるとか、お化けごっこから、森の暗さや夜の闇をイメージさせないようにしてるのかと思ってたけど、銀はやっぱり月光のイメージを重ねてるのかな。どっちやねん。

高校生の頃、この歌が大好きで、周りの友達にお手紙(授業中に熱心に書いて、こった折り方をしてまわすメモ)で感想聞きまくってたのを思い出してしまいました。思春期出すぎ。あいたた。
Commented by k_penguin at 2012-01-12 20:45
ワタシはYMOが好きなので、それ関連てことで戸川純も聞いてました。
カラオケでもときどき歌います。
PVはYoutubeで初めて観たけど、うるう要素強くてびっくりしました。
世代的に小林さんも知ってておかしくはないですけど、
知っててアレ使ったなら
もう終わってると思う・・・。

>銀はやっぱり月光のイメージを重ねてるのかな。

よいちの髪が細いスポットライト浴びて輝くシーンが何度かあるから、
それもありそうですね。
月夜の森って、木の影が出ていてオバケっぽいし。
全体として、月光、霧、靄・・・のイメージってとこですかね。
Commented by arancio at 2012-01-12 22:46 x
月光、霧、霞、あいかわらずモヤっと。
月はびっくりするくらい明るい時がありますけどw。

知ってて使ってても終わってるとは思いませんが、知ってて使うほどみんなが知ってるか、というと???ですねえ。かといって、偶然にしては出来過ぎてるし。

ちなみに周りで「玉姫様」を聴いてたのはニューウェーブ好きの女子でした。
Commented by k_penguin at 2012-01-12 23:38
月光は月光でも、木漏れ日…じゃない、木漏れ月(?)ですね。
銀髪のせいか、「細い線状の銀色」イメージが最初ありました。フライヤーもそんな感じだし。
でも野菜は銀色じゃない。だから混乱したんですが、
「半透明」というヒントをいただいたので、
霧、靄。に落ち着きました。
全部まとめて、
 霧がかった夜の森に一条の月の光が差し込む。
ってとこで、1つ手を打とうかな、
とか。

>「蛹化の女」
いや、知ってて使ったら絶対ダメです。
あれ、待ち人が来ないから冬虫夏草になっちゃう歌だもん。
待ち人は来ないと認めたことになります。
クライマックスで、それはないわー。
来る人も来なくなりますよ。
さすがのワタシもそこまでキツイ解釈はしたくないので
知らないってことにしておいてます。
Commented by arancio at 2012-01-12 23:59 x
あ〜、「蛹化の女」の「待つロマン」に引きずられ過ぎました。
待ち人来る、でしたね。

フライヤー、たしかに霧にライトって感じです。
開演前のスモークももくもくだったし。
Commented by k_penguin at 2012-01-13 00:13
開演前のスモークは『THE SPOT』もそうでしたよね。
もくもく好きなんですね。
開演前に音楽流さないのも、きっと静まりかえった森のイメージなんでしょう。
東京初日は開演前アナウンスすらなかったと記憶しています。
ま、私らパンピーはお構いなしに雑談するから、
あんまり効果出てないけど。


法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


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