押尾さんはがんばっている
押尾さんの裁判が始まった。注目はもちろん保護責任者遺棄致死だ。
押尾さんには興味はないが、保護責任者遺棄致死は成立するかしないか際どい事例であり、その辺には興味津々の俺だ。

世間的には、「殺人で決定!」程度に思われているようだが、それは法廷の中の認識とかなり異なると思う。
この事件を刑事事件としてみたとき、どの辺がポイントとなっているのかを、あちこちの記事から情報を拾いつつまとめてみた。

まず、この事件は「保護責任者遺棄致死」だ。
保護責任者遺棄致死が成立するためには押尾さんが亡くなった田中さんの「保護責任者」であり、かつ、田中さんが「放置によって死」んでいなければならない。
押尾さんはこの2点を争っている。

「MDMAを(田中さんに)渡していないので、保護の責任はありません。人工呼吸もし、放置してもいません。私は無罪です」

という言葉から、この2つの論点が別の物であることを押尾さんが理解していることが伺われる。

MDMAを渡していないから、保護の責任が無いなどとは、言い訳にもならないと考える人も多いかも知れないが、これがそうでもないのだ。

この事件を審議するにあたって、おそらく物差しとなるであろうのが最判H元.12.15の判例だ。
この事例は、ホテル内で13歳の少女に①「覚醒剤を注射した」893さんの事例で、少女は注射からまもなくして異変が起きたが、クスリ使用がバレるのを恐れた893さんは救急車を呼ばず②「漫然放置し」、注射から③a「約3時間後」に子分とともに現場を立ち去った。そのとき少女はまだ足を痙攣させていたが、それから③b「2時間弱して」死亡した。
この事例において、最高裁は保護責任者遺棄致死を認めている。

裁判においては判例が物差しになるから、押尾さんの事件も、少なくともこれと同程度のものであると認められれば保護責任者遺棄致死が成立することになる。

事例紹介のとき丸数字をつけ「」書きしたところが押尾さんの事件と異なるところだ。
順を追ってみてみよう。

①「覚醒剤を注射した」

自ら相手に注射して急性症状を起こさせてしまった893さんは「保護責任者」と認められた(先行行為に基づく保護責任という)。
これを念頭に置いて、押尾さんは「MDMAを(田中さんに)渡していない」と言ったのだ。
先行行為が無いから保護責任がない。
という主張だ。

ただし保護責任の根拠は先行行為だけではない。
密室内で、まんざら知らぬ仲でも無い男女に保護責任が認められるかが争点となる。
(多分認められると思うけど。)

②「漫然放置し」

保護責任者遺棄致死の「放置によって死」ぬ。要件の「放置」部分にあたる。
893さんは「漫然放置し」て、保護責任者遺棄致死が認められたが、
押尾さんは、人工呼吸と心臓マッサージを繰り返したと発言している。
まあ少なくとも「漫然」ではないわけだが、なぜ救急車を呼ばなかったのかが争点となろう。

③a「約3時間後」
③b「2時間弱して」

ここが1番大きな違いだ。
893さんの事例では、少女は亡くなるまで5時間近くかかっているのに対し、
押尾さん事件では検察側の主張でも田中さんの死亡は「容体急変から約1時間後」だ。
「放置によって死」んだと言うには早すぎるのだ。
弁護側が「仮に110番通報していたとしても命を救えた可能性はきわめて低い」
と主張しているのは、放置行為と死の間の因果関係の否定として主張されているのだ(押尾さん自身は、これを主張していないが、それは「お前が言うな」なことだからである)。

一般的道義的には、助かろうと助かるまいと救急車は呼ぶべきであるが、死亡との因果関係の話となるとそうはいかないのである。

893さん事件でも、一審は「現実の救命可能性が100%であったとは言い切れない」と、因果関係を否定している。
これに対し、最高裁は、救急車を呼べば「十中八,九」助かる見込みがあれば因果関係はあるとしている。

押尾さん側からすれば、
少し休めば元に戻ると思っていたら、あっという間に容体が急変して、救急車を呼ぶ暇もなかった。というのがベストの事実構成だが、
救急車は呼ばなかったがマネージャーには電話したようだし、MDMA発覚を恐れていたのは明らかだし、有罪無罪の分かれ目は
果たして田中さんは「十中八,九」助かる見込みがあったのかに絞られると思う。


裁判員はマスコミのイメージに左右されないで証拠で判断して欲しいと、弁護側は言っているし、その通りだとは思うが、
自分大好きそうな押尾さんのことだから、
多分法廷でのイメージもそれほど良くないような気もするなあ。
どうなることやら。


追記 9月18日
保護責任者遺棄までは認めたが、死亡との因果関係は認めなかったという妥当な判断でほっとした。
記事で言えば、③のみの否定。
量刑は実刑なので、少しでも刑務所に入る時期を延ばしたい押尾さんは時間稼ぎの控訴だが、
執行猶予がつくことはまず無いだろう。
by k_penguin | 2010-09-04 16:05 | ニュース・評論 | Trackback | Comments(2)
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Commented by uneyama_shachyuu at 2010-09-05 00:50
刑法犯としては、講学上に近く理屈っぽく語られる傾向が割と高い、保護責任者遺棄致死罪の、論点がはっきりとした事件で、ワタクシも大変興味があります。

それが、裁判員制度で、しかも犯人は「俺ってサイコー」ホスト型元有名俳優だから、どのように見られるかが見物(??)ですね~。
Commented by k_penguin at 2010-09-05 01:20
押尾さんは論点や主張すべきことは理解しているようですが、
「気の毒な被告人」を演ずるには向いてないキャラですからねえ。

ただ、ポイントである「十中八,九」助かる見込みがあったかどうかは、
押尾さんの証言を参考にしなくても、鑑定結果から判断できると思うので、
確かに裁判員の匙加減になってしまうおそれはあります。
弁護側がイメージで判断しないでと再三にわたって言うのも分かります。
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法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。
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