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『ロールシャッハ』その2 2人きりの島で

『ロールシャッハ』について、話の解釈の1つを提示しようと思う。

今回の話はもう作者が他人に分からせようという意思を放棄したとしか思えないほどの説明不足で、この話の中で与えられた材料だけではもう解釈は不可能なので、解釈にあたっては適宜外部から材料を拾って補っていく。

この作品の舞台「壁際島」には4人の男がいて、後もう1人、開拓局の上の人が声だけ出てくる。
4人のキャラクターは、一見違うようで実はあまり違いがない。
全員自分を信じていなくておろおろしている。
今までのKKPのキャラクター類型と同じものであり、おそらく作者の人格を4つに分けたものであろう。
それら4人を束ねている開拓局もまた作者の中にある何者かであると思われる。
つまり、壁のこちら側にいるのは、結局1人なのだ。

次に問題になるのは「壁の向こう側」だ。
4人は、壁に向かって大砲を撃つのかどうか迷うのだが、その壁の向こうにいるのは自分なのか、他人なのか。
もし自分だとすれば、これは自己改革の話であるし、他人だとすれば、これは正義とかの社会問題の話である。
このようにこれはお話の根本に関わることなのに、ここがはっきりしない。
壁の向こうの人に対する態度は、「他者」に対するものとしてもおかしいし、
「自分」に対するものとしてもおかしいのだ。

壁は実は鏡なので、その向こうは鏡像の島ということになっている。
ではそこにいるのは自分自身なのかというと、そういうわけでも無さそうで、なぜなら4人は相手がどう出るか分からないと攻撃を恐れたりしているからだ。
自分であれば相手がどう出るか分からないという恐れは無いはずだし、攻撃も恐れる様なものではない。どーせ自分だから死ぬほどの攻撃はないはずだ。
そもそも向こう側が自分であれば「相手を信じよう」という台詞は出ない。

では向こう側にいるのは他人なのかと考えようとすると、「鏡像の島」ということが邪魔をする。しかも4人の名前は左右対称。鏡文字でも同じ名前なのだ。
どちらであってもおかしいし、同時にどちらでもあり得る。
「自分であると同時に他人である人」。

これまでのラーメンズの作品に「自分であると同時に他人である人」というのは頻繁に出てきている。
つまり、壁の向こうにいるのは「自分であると同時に他人である人」、ラーメンズの相方さんなのだ。
この話は、壁のこっちの小林さんが、壁の向こうにいる(らしい)片桐さんに対して、どうしてくれようかと自分の中で悩む話だ。
たったそれだけのためにこの大仕掛け。その視野の狭さに早くも俺は顔しかめるのであった。


壺井はテニスの壁打ちをする(壁の位置はちょうど客席の後ろあたりだ)。
テニスは本来2人でするもの。しかし相手が壁では球は跳ね返るだけ。
小林さんは、今まで何度もアクションしてきたのに、壁のように相手は沈黙したままだった、というわけだ(そしてボールは客の頭上を飛び越える!)。
もう、普通のやり方ではらちがあかない。沈黙を続ける相手に怒りは爆発寸前。
何か1発ぶちこみたい!・・・何を?
小林賢太郎のリーサル・ウェポンは1つ、「ラーメンズ解散」だ。
その破壊力は未知数。もしかして全然効かないかも知れないという意味でも未知数。
片桐さんはもうラーメンズに頼ってないかもしれないし、もしかして機先を制されて、逆に相手から解散を持ち出されるかもしれない。その意味で相手も同じ武器を持っている。

しかし、小林さんの真意は解散することではない。解散は脅しに過ぎなくて、真意は相手に自分の話を聞いて欲しいというところにある。
よく準備してよく狙って、機を読んで発射しなくてはならない。
下手に大砲を撃てば、ほんとに解散するだけで終わってしまう。
大砲の指導は「人形を使った腹話術師」富山が行い、
空砲の誤射は「ラーメンズ解散のリアル嘘」を指すことになる。

さあ、やるかやらぬか。やろうと思えば出来そうだ。
しかし。

しかし、相手を振り向かせたとして、その次には何がしたいのか。
「開拓局」は大砲ぶち込んだ次は何をするのか。

  相手を自分に従わせたい、そして、自分の領土としたい。

小林さんがこの期に及んでまだ片桐さんを自分の自我に取り込めると思ってるあたりが呆れるのだが、とにかくその欲求は昔から存在し、そして未だ存在する。
だって「自分であると同時に他人である人」なのだ。この際もう「自分」になればいーじゃん。
そう思うと同時に、しかしそれは不穏な香りもする。
ミサイル、パイオニア号は舞台の後方に存在して常にみんなの目の届く所にあり、羨望の的になったり逆に威圧したりする。
他人を自分とする。
それは魅力あることだが、しかしそれは「良くない」ことだ(「できない」ことではない)。
それは精神の殺人であり、人がやっていいことではない。
天森はロールシャッハな地図を開いて「悪魔に見える」とつぶやく。

俺としては、大砲を撃つのをやめたメインの動機は結局これではないかと思うのだが、4人はその後ほとんどムダとしか思えない大騒ぎの会議をやらかす。
他人を全く考慮しない自分の中だけの会議では、何を論じようと「やりたいようにやる」以外の結論にはなるわけはなく、
そして案の定「やりたいようにやる」ということに決まり、「壁を撃たない」ことにする。
なぜ「壁を撃たない」ことをやりたいのか、というところこそが聞きたいところなのだが…。


まあ、とにかく、「壁に撃たない」と決めたのだ。
相手に向けていた銃口を最後の瞬間に空に向けて撃つガンマンのように、彼らは大砲を真上に撃つ。
あいにく大砲なんて大物を設定してしまったので、真上に撃つにも「発射音はさせないと本部にばれる」とか「弾を回収する」とか変な理由がついてしまったが、
意識としては、ガンマンのそれであり、何で真上に撃つんだ斜め上でいいじゃないか、などと質問するべきではないのだろう。


そして、撃たないと決めた以上、ラーメンズは方向転換せざるを得ない。
富山は開拓局をやめ(=人形を使った腹話術をやめ)、芸人になる。
富山以外の3人のその後について言及が無いのは、作者的には大した問題ではない。
どーせ4人は同一人なのだ。1人が決まればそれでいい。
てゆーか、この世界では小林さんの懸案事項はラーメンズのことだけだしね。
それさえ決まれば、怒りっぽいことや気が小さいことや、他人への文句ばっかりのことなんて、別に今さら治らなくていいだろうし。


と、まあ・・・自分の感想をなるべく抜きにして、作者はこういうことをひとりごちているのであろうと言うことだけを述べてみた。

で、言ったばかりでこう言うのもアレなんだけど、
この結論で、彼自身が納得出来ていると俺には思えないのだ。
「開拓局」が依然残っているからだ。

4人は「開拓局」に逆らうということは全く考えない。
自分のやりたいようにやる、と言いつつ、「開拓局」を誤魔化してその場を切り抜けることだけを考え、そしてそういう処理をする。
「開拓局」もまた彼自身なのだ。
本当にやりたいことをやるのであれば、その前に「開拓局」と折り合いを付けなければならない。
そうでなければ、有効な解決はない。


こうなったら俺はむしろ、大砲をぶちこめばいいじゃんって思うんだけど。
「開拓局」に完全に支配されている壁際島にどーせ答えはないのだ。
向こう側の空気を入れた方がまだましなんじゃないかって。
向こう側の片桐さんもダメなら、それまでだけど、
このままでもいずれいきづまるんだから、同じこと。

真上に向けるにせよ、大砲を撃ったということは、怒りはまだ収まっていないということだ。
今までの積もり積もった因縁のパワーは結構な威力を持っているように見受けられるのだが、
果たしてそれをそんなに簡単に、未来を目指すポジティブパワーに変えられるものであろうか。
俺にはそうは思えない。
大砲の弾は素手でキャッチできる物じゃないのだ。


追記メモ 12月29日

小林さんは「正義」という言葉を通常の意味ではなく、「自分がやるべきこと」という意味で使っているようだ(通常の意味でなく、彼独自の意味で使われる言葉は他に「向いてない」がある)。
パーセントマンはこの文脈で考えた方が良いかも。
つまり「正義の味方」を「正義」を仕事としている人ととらえたうえで、
自分がやるべきことを見いだしてそれを仕事としている人、と変換する。
そうすれば、理想と呼ぶにふさわしいものになる。
編集長はオフの状態。

「ちくわマン」を俺は「正義の味方」とはとらえていなかった。
彼は息子のケンイチくんを救うために活動しているだけだからだ。それは父親としてあるべき姿だけど、「正義」とはちょっと違う。もちろん仕事でもない。
でもそれは、父親として「自分がやるべきこと」だ。そして「救うために活動すること」に着目すればそれは「正義の味方」だ。
そしてもしも、息子がもう救う対象とはならなくなったとしても、
息子の代わりに赤の他人を救えばそれはもっと「正義の味方」らしくなるし、「自分がやるべきこと」として仕事にもできそうだ。

観念的に「正義の味方」という言葉をかすがいにして、「父親」から「仕事」にモチベーションを移行させたわけだが、これを実行するには障害が伴う。
なぜなら、ちくわマンの「正義の味方」としてのインセンティヴは、親子関係にあるからだ。
観念を操作しても、親子は仕事にはならない。
対価がない仕事にインセンティヴを見いだすのは難しい。
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by k_penguin | 2010-10-31 21:16 | エンタ系 | Trackback | Comments(72)

シティボーイズミックスPRESENTS『10月突然大豆のごとく』

最初に言おう。

今回は大当たりだった!
よかったよかった。

そして、公演後半を選んでほんとによかった。
みんな一応台詞を覚えていたし、斉木しげるのやりたい放題もまあうまいこと処理されていたし。
今回は、ザ・ギースとラバーガールという若い人たちも加わり、初老のじいさん達の奮闘がより際だつ感じに。

「10月突然」いろんな変なことが起こる。
という出だしから、後はあまりそれとは関係なくいろんなコントが繰り出され、
斉木しげるははしゃぎ、大竹まことは怒鳴って頭上で扇風機を回し、きたろうは猫カフェコントをしてドヤ顔をし、大豆は結局出てこない。と。

特に印象に残ってるのは、「重厚な芝居」と、「chorus」でぜえぜえ言ってうずくまる大竹まことかなあ。
あとラバーガール大水の「山手線の中の人」。

もう毎年は出来なさそうな感じだけど、
また観たいなあ。



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by k_penguin | 2010-10-25 12:51 | エンタ系2(ライブレビュー) | Trackback | Comments(0)

瀬戸内国際芸術祭

直島、豊島、男木島、犬島、そして高松に行ってきた。

とにかく、も う 人 多 杉。
佐賀から来た人が、「地元よりも人が多い」と嘆いていた。
さすがに東京よりは少ないが、ひなびた瀬戸内の島の風景の中にこれだけ人が歩いているのを見ると、なんだか亜空間に来たみたい。
直島、犬島、豊島に行くために、船の整理券が配られる1時間前から並ぶ。それでも10人ほど人がいる。高松ー豊島7時28分の便に至っては、6時30分で40人だ。
そして港で全員が「せっかく平日を狙ってきたのに」と合唱する。

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直島の午後(平日)


人気の南寺は諦めた。
豊島では、「ストームハウス」「ビューチィー」を諦める。雨降ってたし。
「心臓音のアーカイヴ」は、最初から興味なし。


自分が行った中で、堂々の1位は犬島。
柳幸典が好きで、廃墟も好きなので、完全にツボ。
「精錬所」のトイレは必見。

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精錬所跡の壁。美しい・・・。


2位はオープンしたての豊島美術館。
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後ろにちょっと見える銀色のやつ

内藤礼の作品はメディアでは見る機会があったけど、ミニマムなのでどうしてもインパクトに欠けて、今までなかなか直接見る機会がつかめなかった。
これだけの規模で直接体験すると感動する。
床に空いた小さい穴から水がしみ出て、撥水加工した床をころがり、他の水とくっついて最後は音を立てて床の穴に落ちてゆく。
客が多すぎて15分と鑑賞時間が制限されているのが残念。
これはいつまでも見ていられる。
なお、豊島美術館にある作品はこの1つだけ。


後は、ほとんど3位の同位。
地中美術館では、タレルの「オープン・フィールド」を見るために40分近く待たされるが、待つ場所がタレルの「オープン・スカイ」の部屋。
切り取られた天井からぼーっと空を見ていると、それはそれで良い感じ。
こういう事態でなければ、1分で分かったつもりになって出て行ってしまうんだけど、しみじみ味わえるのはケガの功名?作品配置はここまで考えているのかしらん。
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地中美術館待合室のゴミ箱はオリーブサイダーの瓶でいっぱい。

ベネッセハウスミュージアムは、ポロック、柳、ウォーホル、ホックニー、一通りある。
「ちゃんとわかってるんやで」って感じ。


家プロジェクトはそれぞれ味がある。
島のおっちゃんおばちゃん達は本当に頑張っている。観光客相手は大変だろうに。
山中のバス停で「徐行」の旗振りのおっちゃんは10分おきになされる「豊島バスはいつ来るのか」という問いに対し、律儀に「さ~、それはわからんねえ~」とのんびり答えていた(客が多すぎるのと臨時バスの増発のため、ダイヤはないも同然になっていた)。
犬島への臨時便の船内放送では、おっちゃんが独自の観光案内をしていた。
・・・なぜ彼は「西部警察」の爆破シーンが犬島ロケであることを、あんなに押していたんだろう・・・。
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直島、焼杉の壁。

盛りだくさんの3日間だった。
とにかく、人がもう少し少なければもっと良かったと思う。

観光客はみーんなそう言ってたが。
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by k_penguin | 2010-10-23 01:34 | エンタ系 | Trackback | Comments(2)

小林賢太郎演劇作品『ロールシャッハ』 (KKP#7『Rorschach』)

KKPも7作品目。前回の『トライアンフ』が学芸会レベルの酷さだったせいか、小林賢太郎絡みなのに今回はe+が2次プレまであった。
小林賢太郎も公式HPで作品の内容を少し紹介する、という彼としては珍しいサービスを行った(今考えてみれば、あまり合致してない内容紹介だったが)。
そんなだからチケットがだぶついているのかというと、そんなことはなく、本多劇場はいつもと変わらず大入り満員であった。
…いや、少し違う雰囲気がした。
客同士の会話や、劇場の係員とのやりとりから察するに、初めて本多に来たらしい客が散見されるのだ。
…恐るべしテレビ!BSでしか放送されてないのに!

さて、フライヤーを取り出してみると、全体的に
 
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していた。
そのときは読まなかったが、後でフライヤーに書かれた英文を読むと、ストーリーがオチまで含め、全部書かれていた。

今回はそんな作品。

設定も、ストーリーも全体的に、
 
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している。
だから盛り上がりどころが分からない。
2時間10分の作品だが、ようやく話が始まるのは90分ほど経ったとき、3人が「肩書き」を貰ってからといっていい。
それまで何をやっているかというと、
『トライアンフ』の夏歩香があと3人増えてみんなで学芸会と会社の宴会の出し物をあわせたようなことをやってる。
「こーゆーことやっときゃ客は笑うだろう」ということをそつなくやっているのでそこそこ笑える(キャラが固まってる久ヶ沢徹はやはり強い)が、別にテレビの深夜バラエティでも同じくらい笑えるので、特に劇場に行く価値はない。

…これでは金を払って下北沢まで来た甲斐がない。
自分なりに話を詰め
 
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しているあたりをクリアにして、少しは作者の心情に触れたいものだ。

と、いうわけで、「深読み」に入る。

良いことは書いてないYO
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by k_penguin | 2010-10-16 15:34 | エンタ系2(ライブレビュー) | Trackback | Comments(60)


法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


by k_penguin

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