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NODA・MAP第13回公演 『キル』

恥ずかしい話だが、俺は言語感覚が人より鈍い。
IQテストでも「言語」分野だけは人並み以下。ワープロソフトがなければ書けない漢字がどれだけあることやら。
そんな俺が言葉遊びの多い野田秀樹を苦手としてもおかしくはないわけで、だから前回の『ロープ』がよく分からなかったのなら、別に無理してまた舞台を見に行かなくてもいいのだが、初戦で敗退というのがむかついたので、再度チャレンジしてみた。
『キル』は何度目かの再演だったせいか、妻夫木聡とか広末涼子とかが出ている割にはチケットが手に入りやすかった。
シアターコクーンは『ロープ』のときに中2階の席を取って失敗した経験を生かし、「中2階の中ほどよりも、1階の後ろの方がまし」の教訓に沿って席を取った。


モンゴルの大空とファッションショーの舞台をイメージした舞台美術と照明が美しい。
「にほんごであそぼ」でおなじみ、ひびのこづえの衣装も雲の塊のようなイメージがあって、テーマと合っている。
広末涼子とゆー人はテレビで見ている限り、きれいだがしゃべり出すと残念な人、というイメージがあったが、今回はおばかなモデル役、つまり最初から残念な人という設定だったので、残念に思わないで観ることができた。
つか、ちゃんと出来てるし。
お笑い担当、勝村政信が怒鳴ったり走ったり、大活躍だったが、隣のおばさんは「あいつ、目立ちすぎ」とおかんむりだった(妻夫木のファン?)。


さて、お話は、キル-切る-着る-kill、というわけで、ジンギスカンの世界とモードの世界が重なる世界で、世界征服(制服)のそーだいな話が繰り広げられる
   のだが・・・うーん、やっぱり苦手。
言葉遊びのおかげで、台詞を反芻している間にどんどん先に進まれてあせってしまい、ついには台詞を聞き漏らしたりしてしまう。
そのせいか、どうも舞台の世界に今ひとつ入り込めない。
第2幕では、背もたれが高い椅子(マッキントッシュのはしご椅子みたいなの)を何かに見立てて話を進めることが多いのだが、何に見立てても残念なことに俺には椅子にしか見えなかった。
話が理解できないわけではないのだが、ジンギスカンの世界征服と、世界を覆わんばかりのファッションブランドの流行と、2つの全く違うものを重ねているせいで、話が抽象的で感情移入しにくいのだ。
要するに、親から得られなかった愛の欠落を埋める話なら、どっちか片方の世界の話だけで別にいーんじゃないのかなー・・・なんてぼんやり考えてしまった。


とか、考えていたら、朝日の文化欄の記事に『キル』のパンフからの野田秀樹の文の引用が。ラッキー。
では、二重引用を。
野田秀樹が上演中の自作『キル』のパンフレットに、こう書く。
<「等身大」の物語が大嫌いだ>。<「紅葉の葉脈の小さな迷路に迷い込んだり」「朝の光をむしゃむしゃ食べる」ようなことが、作家の書くべきこと>であり、職場や学校、家庭でのあれこれを描く「等身大」の演劇は<敵>だ、と。

なるほど言いたいことは分かる。
が、モンゴルの青い空に、世界を巻き込むブランドの話を掛け合わせれば無条件に物語のスケールがでかくなるというものでもない。
最近大型液晶TVを買った俺は、深夜アニメなんかをちょいちょい観るようになったのだが、「世界の滅亡」とか「地球の存続」が絡む話のくせにスケールがちっちぇえったらありゃしない、という話がごろごろしている。
話のスケールが小さいのではなくて、出てくる人間のスケールが小さいのだ。これはつまり、作り手のスケールが小さいということでもある。
人間のスケールが大きければ、職場や家庭での話でも十分に大きな話になれる。

それに、ぶっちゃけ、紅葉の葉脈の小さな迷路もしくは朝の光をむしゃむしゃ、の類の話は、今の時代においては、だいたい親に愛されない子供の話になる。「孤独」が強く絡む話だからだ。

親に愛されない子供の話も、十分等身大だと思うのだが。
Commented by saka_hama at 2007-12-16 21:01
なるほど。
文学作品ならともかく、舞台芸術に言葉遊びも何もないのかも。
見ていて直感的に分かるようでないと、おもしろくないでしょうな。
ましてモンゴルの話なんか、実感もわかないし。
>初戦で敗退というのがむかついたので、再度チャレンジしてみた。
まー、相手が「お前連敗だな」というんなら、勝手に言ってろ、ってことでいいんじゃないでしょうかww
Commented by k_penguin at 2007-12-17 01:30
舞台は文学と違って、発声するので、
言葉遊びは喋りのリズムにも左右されるみたいです。
ラーメンズの言葉遊びなんかは聞いていてすんなり受け入れられるのですが、多分、野田秀樹とは感覚が合わないんだと思います。

>相手が「お前連敗だな」というんなら、勝手に言ってろ、ってことで
 ・・・あー、あらためて言われてみると、連敗なんですねえ・・・むーん。
「THE BEE」なら、いけるかと思うんですよ。
3度目のチャレンジがあるとしたら、「THE BEE」でいこうかと思ってます。

Commented by バイダール二世 at 2007-12-17 11:30 x
二十年位前だったか、舞台を一度だけ見に行きました。感情移入する前に話は展開するし、別に目新しい感じも無いし、何より、観客が同じ所で同じように笑うのが気持ち悪かったです。
Commented by k_penguin at 2007-12-17 11:50
話が抽象的だから感情移入するには中途半端なんですよねー。
今回の話にしても、モンゴルの話もモード界の話も、設定詰めるのがイヤだったから、2つ掛け合わせて細部の詰めを誤魔化すつもりだったんじゃねーだろーな、
とか、ぼーっと考えてしまいました。

抽象的だと逆に観客の中には、自分個人の話に勝手に重ね合わせて感情移入してくれる人もいるんですが、
そーゆー見方って、作者の意図をくみ取るという点で疑問があると思っています。

ただ、野田秀樹は前にTVで『赤鬼』を途中から観て、それは感動したので、
うまく作品と波長が合えば、かなりのヒット(自分的な)が期待できるのでは・・・と、考えています。
でもチケット高いから、ソフトとかTVとかかなあ。
Commented by バイダール二世 at 2007-12-17 14:10 x
波長とか、確かに有りますよね。これも昔ですが、佐藤B作の劇団・・・年のせいか名前が・・・を、見終わって意外と爽やかな気分でいる自分に驚いた事が有ります。赤鬼、機会が有れば拝見します。
Commented by k_penguin at 2007-12-17 21:43
舞台には「空気」とゆー奴があるので、うまく相性が合えば、映画とかテレビとかよりも強い感動を与えてくれることがあって、そこがいいところだと思います。
ただ、その「空気」が、かなりビミョーな偶然の要素に左右されるとこがいろいろメンドーですな。

バイダール二世さん、今後もヨロシクー。
by k_penguin | 2007-12-15 23:06 | エンタ系2(ライブレビュー) | Trackback | Comments(6)

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


by k_penguin