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KKP#5『TAKEOFF~ライト三兄弟~』(2007年再演版)

この作品が再演されると聞いたとき、正直、「しまった。」と思った。
なぜなら、どうせ2度とやらないだろうとたかをくくって、初演の時さんざんなダメ出しをしたあげく、自分でこの作品はこうなるべきだ、とシナリオのクライマックスシーンの書き直しまでしてしまったからだ。
これでは客観的な目で再演版を見ることは難しくなってしまう。
どうしても前回との比較、という視点で見てしまう上に、めんどうなことに俺は自分の書き直しこそがベストだと信じているからだ(あそこまでたどり着くには苦労したんだ!譲らないぞ!)。

と、いうわけで仕方がない。
書き手が偏った視点であるということをあらかじめごりょーしょー願う。


んで、そんな俺の感想は、舞台が終わった後、通路で後ろを歩いていた女の子と基本的に同意見だ。
「前とあまり変わってない。最後は良くなった。」

「最後」というのは、篠田の裏切りのシーンを指していると思われる。大きく変わったのは、このシーンだけだ。ここは前回最悪だったが、格段に良くなって、「並」のレベルに上がった。
全体的に初演よりも作品を絞り込んではいるが、それでも、押さえるべきときに押さえていないので、流れが悪く、とっちらかっている印象がある(図面のシーン直せってば)。
初演を見ない人はちゃんと話について行けたのだろうか。
まあ、ついて行けなくてもそれなりに笑えるからいいや、と思える作品ではあるが・・・。

ストーリー以外では、オレンヂが台詞負けしている感がある。
小林賢太郎の台詞回しは独特なので、どうしても、小林賢太郎が台詞をしゃべることを頭に置いてそれと比べてしまう。意味は同じでも言い方が別の台詞に変えた方がいいと思う。
久ヶ沢徹は大活躍。
織部というキャラは3人の中では最も気に入っているのだが、より深みが増していた。
「俺が誰かをゆるさないと、俺は誰かにゆるしてもらえないんだ。」
という言葉が出たのには驚いた。

作品を単体としてとらえれば「笑えたから、まあ、いーや」という程度。
カーテンコールでのクラッピングに、初見らしい隣のおばさんがびびっていた。



*小姑のようなダメ出し編

篠田の裏切りのシーンが一応直っているので、話の分かりにくさが気にならなくなった方も多いと思うが、一通り指摘してゆく。

*図面のシーン

レアな(可能性のある)図面を偶然見つけたからといって、なぜその飛行機を作って飛ばさなければならないのか。
子供の誕生日のためなら、(実物大)模型で足りる。
その指摘に対して、織部はまともに答えない。要するに、無条件に飛ばしてみたくてたまらないのだ。あびるも同じだろう。
素人2人組(あびると織部)が、篠田をノリで押し切ってしまったような形になっているが、飛行機作りは飛びたいから、という思いつきだけのノリで出来るようなことではない。
設計図通りの物体の形を作るよりも、その物体を理論通りに飛ばすことの方がはるかに難しいことくらい、俺でも知っている。ピタゴラ装置ですらあれだけ大変なのだ。
飛行機にくわしい篠田は、そのことを1度は指摘しなければならない。
それに対して、メロンジュースのたとえで対抗すればよい(リクツに実践が伴わないのが篠田の弱点)。

話としては、「飛びたい」という動機は飛行機作りの最初と最後、計2回明示される必要がある。
そもそも、各々の動機が表明され、利害が一致し、同一の目的を確認したところに「仲間」と呼ばれる集団が出来る。だから表明された動機が嘘だったことを「裏切り」と呼ぶ。
各自の動機が明示されない集団は「仲間」ではない。たむろってるだけだ。
たむろってる人には飛行機は作れない。これはやるまでもなく確実だ。
今回は、最後の裏切りのシーンで初めて「飛びたい」という動機が明示されていて、それは全く明示されない初演よりもはるかにましであるのだが、最初で動機が明示されないため、
「じゃ、あんたら今まで、何やってたの?」ということになってしまう。
言ってみれば、最後で初めて「仲間」になったのだ。

シナリオで篠田の動機付けとなっているのは、最後の「他の誰かがこれを先にやってしまうかもしれない。」「それはとっても悔しいね。」だ。

*篠田の裏切りのシーン

相変わらず、篠田がなぜ裏切ったのかがはっきりしない。
金のためであると言うことと、フライヤーが壊れるようなことをしたくなかったためと、2つの動機を口にしているが、これはどっちか1つに絞らなければならない。

金のためであれば、「世界一周を自分で実現するため」という動機は不要だ。
篠田は会社をクビになっていて、単純に生きるために金が必要な立場にあるからだ。
そして、そうであれば、フライヤーを持ち出すことをあきらめて、一人でどこかに立ち去ると言う篠田に対して客は素直に心配することができる。

また、フライヤーが壊れるようなことをしたくなかった、というのであれば、やはり失意の篠田に対して客は心配することができる(壊れたならパトロンに金出してもらって直せばいいじゃんとも思うが・・・)。

でも、両方はどっちつかずになるからダメ。

おそらく、彼の真の動機はフライヤーが壊れるようなことをしたくなかった方だろう。
自分の理論が現実に通用しないことを恐れていたから(そしてこれが初めて明示された彼の「飛びたい」動機だ)。
でも、それなら金の話は不要であり、むしろ客を混乱させるので書かない方がよい。
それ以上に、「金持ちのバイヤー」というのもはっきり言って不要の存在だと思う。
このバイヤーというのは、さんざん電話をかけて篠田をおろおろさせていた割には、あっさり切り捨てられている希薄なキャラだ。


・・・以上の2点がふつーに読んで、短所であると考える。

ただ、今までの小林賢太郎の作品の流れを考えに入れると、この2点には別の意味も出てくる。
その辺の考察については、一般的にニーズはないものと思われるので、これとは別の記事にしようと思うが、
俺的には、小林賢太郎はよく自分と戦い続けていると思う。

小姑ついでに差し出がましいことを言わせてもらえば、
KKPに関しては、外部から演出家を入れた方がいいと思う。
KKPは、割とゆるい感じで作られているようだし、いろいろチャレンジという遊びの幅があってもいいと思う。


『TAKEOFF』2007 Take2 ツンデレなシナリオ
Tracked from 引きこもらない。 at 2007-11-04 22:08
タイトル : KKP#5「TAKE OFF〜ライト3兄弟〜」小林賢太郎..
まさか自分がラーメンズの批評をするとは思っても見なかった。 大概のラーメンズ関連のレビューは大嫌いだからだ。 web上で、ラーメンズへの批評と言えば、大体が小林賢太郎への批判か、異常な崇拝かのどちらかになる。 それらのどちらも分かってどちらも嫌だ。ネタぎ..... more
Commented by saka_hama at 2007-10-28 21:34
こんばんは。
結構色々行ってますね。。
経済学者の森永さんは男の自由の奪うものは住宅ローンと専業主婦と子どもだと言っていたけど、わたしは3つともにどっぷりとはまっています。。
昔は映画や舞台も好きだったのに・・・うらやましい限りです。
でも、ペンギンさんのレビューを読んで、行った気になってます。
ありがとう。
Commented by k_penguin at 2007-10-28 22:03
住宅ローンと専業主婦と子ども。
なるほど、言い得て妙ですな。

今は、舞台作品のDVDも出てるし、また、WOWWOWに入れば、
お茶の間で主な舞台を、ベストの位置から見物できるのですが、
手軽なだけに、逆に何かと後回しになって見なかったりするんですよね。

ワタシもいつまで舞台を見に行く余裕があるか分からないけれど、
出来るうちは直接見に行こうと思っています。
Commented by 茉莉花 at 2007-11-04 02:06 x
はじめまして、茉莉花と申します。
私は、今回の再演で初めて「TAKEOFF」を観たのですが、
やはり「??」な部分があり、消化不良を起こしたような感じになっていました。
(台詞の意味や感情の動きを理解するのに必死で、
せっかく初めて小林さんの舞台を観たのに細かい所までは覚えていませんし・・・)

とても興味深く、且つ納得のいく解釈で、
読んでいて「あぁ、そうだったのか!」と何度も思いました。
k_penguinさんのレビューを、2006年版の方も併せて読んで、
かなり理解度が増したように思います。
ありがとうございます。
Commented by 洗濯機 at 2007-11-04 15:16 x
初めまして。
私的には、「TAKEOFF」の内容がどうであれ、KKPだしこんなものだろうな、と言う感想です。
あれは賢太郎のお遊戯会であって、内容なんて在ってないモノなんじゃないかと。だからどう解釈しても「TAKEOFF」はあれ以上でも以下でもないような気がします。まぁ彼の作品は深読みが楽しいんですけどね。

ラーメンズのレビューはなるべく見ない様にしていたのですがk_penguinさんの記事を読んで賢太郎氏に対して感じていたことをどうにももうにも形にしたくなり米欄では書ききれない思いをこちらに認めた次第でございます。
http://27234.blog123.fc2.com/blog-entry-2.html
出来ましたら、お暇な時にでも目を通して下されば幸いです。
Commented by k_penguin at 2007-11-04 18:00
茉莉花さん初めまして。
記事がお役に立てたようで嬉しいです。

やっぱりよく分からないとこがありますよねえ。
初演の方で書いたんですが、
篠田の裏切りのシーンを、あびるの自転車、織部のスクーターの供出と同じ、
目的の実現のためには愛するものを犠牲にする必要があること(物事の前進のためには・・・)、
と、とらえれば、かなり作品の筋が通りますし、
そう解釈することは決して作者の意に沿わないことではないと思うのですが、
なぜか小林賢太郎はこれを明示しようとしません。

せっかく楽しいお芝居なのに、台詞の意味や感情の動きを理解するために
考えこむ必要があると、楽しむ余裕がなくなっちゃうんですよね。
もったいない。

そのうち、再演版用の解釈の記事も書きたいと思っています。
Commented by k_penguin at 2007-11-04 18:00
洗濯機さん、初めまして。

批評、読ませていただきました。
感想等は、そちらのブログに書かせていただきたいと思います。

>「TAKEOFF」の内容がどうであれ、KKPだしこんなものだろうな、と言う感想です。

「KKPだし」というのはよく聞きます。
が、ワタシ的には、それは免罪符にはならないと考えています。
なんにせよ、モノには限度ってもんがあります。
客に席をお立ちになっていただきたいのなら、
もう少し、外部の意見を取り入れるべきです。
ワタシがこの記事でシナリオにつけた注文は決して特殊なことではなく、
普通の作品を作りたいのなら誰でも思い至ることだと思うのですが・・・。
Commented by 洗濯機 at 2007-11-04 22:28 x
ありがとうございます。TBをして見ましたが何分ブログと言うのに慣れていないのでこれであってるのかよく分からないです。私のブログの方に引用のような形にしたかったのですがやり方が間違っていたら消して置いて下さい・・申し訳ないです。

>客に席をお立ちになっていただきたいのなら、
もう少し、外部の意見を取り入れるべきです。
この点はその通りですね。確かにお金を取っている以上一定の基準は求められますし、席を立たせたいならば、もう少し変えていく必要が感じられますね。
>ワタシがこの記事でシナリオにつけた注文は決して特殊なことではなく、
普通の作品を作りたいのなら誰でも思い至ることだと思うのですが・・・。
Kさんのレビューはこちらとしても何やら語りたくなるぐらいに興味深く読ませてもらっています。おっしゃるように彼の舞台としての脚本はまだまだ発展途中であると思うので言わないで見守ってやってくれと言うのも変ですが・・いや短い米欄では言葉が足りなかったです。正直こちらを振り向いて欲しかったので、物言いが強めになってしまいました。笑
こちらのブログにも返信して置きましたのでよろしくお願いします。
Commented by 茉莉花 at 2007-11-05 00:31 x
コメント返しありがとうございます。
そうですよね、やっぱり1番謎が多いのは篠田なんですよ。
織部がスクーターを供出したあと、「じゃあ篠田は・・・何出すんだろう? PC? いや、PCはいらないだろう。じゃあ知識? 違うか・・・。物質的なものは何も出してないなぁ」と、悶々と考えてしまいました。

HAEを盗み出そうとしたときだって、世界一周がしたいと話していたので
「生活費よりも世界一周? 会社クビになったんでしょうに・・・」
と、篠田というより小林さんに突っ込み入れたくなってしまって。

もう千秋楽を迎えてしまいましたが、もう1度「TAKEOFF」を見たら
また違ったとらえ方が出来たんだろうなぁと、少し残念です。

再演版の解釈も楽しみにしております。
ちょくちょくお邪魔させてくださいね。
Commented by k_penguin at 2007-11-05 01:05
洗濯機さん

ライブポツネンまでであれば、シナリオに問題があるとは書いても、直せとまでは言わなかったのですが、
席を立って拍手しろとまで言われたら、
文句の1つ2つ3つも付けさせていただきますよ。ええ。
商業舞台は文化祭じゃないんですから。

彼は一人ですべてを作ってしまって、しかも作品が「完璧」なため、
作品の問題点は、きれいに彼個人の内心の問題点と対応してしまいます。
ワタシだって、あまり人のことほじくり返したくないんですよ。
そーゆー意味でも、演出家を入れて欲しいんですよね。
Commented by k_penguin at 2007-11-05 01:20
茉莉花さん

篠田は問題児ですよねー。
今回の篠田の告白のシーンだって、HAEを盗むことなんてできない、お金はいらない、ボクは出て行く、と言ったあと、
HAEに抱きついて
「ボクは良いけど、でも、こいつがなんて言うか~。」
と未練たっぷりに言えば、すごい面白かったと思うんですよ。

話を分からせるために、初演版よりもギャグやアドリブを減らしたようですが、
そんなことしなくても、にぎやかなままで話の筋をびしっとさせる方法はあるだろうに・・・と、いろいろ残念なんですよね。

これからもよろしくー。
Commented by 洗濯機 at 2007-11-06 19:32 x
>商業舞台は文化祭じゃないんですから。

まさにそうですよね。まぁあれが仮に小林賢太郎の舞台でないとしてらまぁまぁだな、で終わりですが、なまじ彼ならやってくれるだろうと言う期待があるからついつい辛口になってしまうんですよね。

演出家を入れて自分以上に上手くやられたら、と
演出家を入れても自分以上に上手く出来るはずがない、と
演出家を入れてなくても自分一人でやれるはず!
この三つで難しいかな・・。
他演出の舞台で結構コケてる過去もありますしね。

でも公式で、新しいの書く、との文字を見てまだまだ止まる無く気なんてなく、楽しませてくれるな!とちょっとワクワクしました。
Commented by k_penguin at 2007-11-06 21:53
>他演出の舞台で結構コケてる過去

あ、それ、知らないや^-^;
まあ、バニー兄さんは絶対妥協しなさそうですからねえ。
『完売地下劇場』で雪竹Pが
「小林さんは、怒るから怖いです。」と言ってたのも、
なんか作品のことで逆鱗に触れるような注文を言っちゃったんだろーなーって気がしたし。
とことんまで腹を割って話し合ってくれる人じゃないと演出は成立しないと思います。

>新しいの書く

森谷ふみさんなんかが出るんじゃないか、
つーことはNAMIKIBASHIなんじゃないか、
なんじゃないかなー、
とか思ってますが・・・。
Commented by ma-ちん at 2007-11-06 22:43 x
はじめまして、ma-ちんと申します。

今回、初めてKKP公演を友達と観に行き、あまりのひどさに、腰が砕けてしまった、一人です。

しかし、巷の批評は、私達の感想とは、まったく違うものばかり。

一瞬、私が変なの?と頭を抱えておりました。

やっと、同じ様な意見をお持ちの方を探す事が出来、ほっとしております。

賢太郎大好き人間と致しましては、もう、笑い飛ばすしか方法が無く「KKP公演のダメさを愛でる会」を立ち上げました。

これからも、お邪魔させていただきます。宜しくお願いします。
Commented by k_penguin at 2007-11-07 00:39
ma-ちんさん、初めまして。

>今回、初めてKKP公演を友達と観に行き、あまりのひどさに、腰が砕けてしまった、一人です。

それはお気の毒様。
これでも初演よりはましになっているのですが、
アドリブを減らしてしまったため、ノリでごまかすことが難しくなっちゃったんでしょうね。
初演を見た人はもう慣れたので、今更文句は言わないようです。

次回作もKKPなのかな?
そうだとしたら、そろそろワタシは撤退を考えたいと思いますが。
by k_penguin | 2007-10-27 16:39 | エンタ系2(ライブレビュー) | Trackback(1) | Comments(14)

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


by k_penguin