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4000人の懲戒請求は不法行為を構成するか・その1 橋下弁護士の言い分を叩く

まずはじめに言っておくが、今回の光母子事件弁護団への懲戒請求が不法行為を構成するか、ということを問う現実的な意味というものはない。
現実問題として訴えられる可能性が非常に低いからだ。
訴えるのであれば、実際に弁護団がやったように、橋下弁護士を相手にするか、または、橋下弁護士と、番組の編集権を持つテレビ局の両方を相手にするか(実際、検討されたらしい)、だ。

だから、今から書くことは、「もしも恐竜が絶滅しなかったら?」というお題に似た、Ifものの法律クイズだと思って欲しい。




さて、このお題については、不法行為成立派と、成立しない、と言っている橋下センセイとが対立している。
成立しないと言いきっている人は、今のとこ橋下さん以外には見つけていない。
で、その両方があげている判例が、最判H19.4.24だ。
不法行為成立派はこの判例の基準に照らせば今回も成立すると言い、
橋下センセイは
平成19年4月24日の最高裁の判決を引き合いに出していますが、これは弁護士がよくやる常套手段です。自分の都合にいいように最高裁の判例を引用して相手にプレッシャーを与えるのです。懲戒請求した皆さんへの脅しです。

と、言うわけだ。

まあ、とりあえず件の判例を調べてみよう。


この判例は、Xに対して訴訟を起こして勝ったA弁護士に対し、Xが懲戒請求(請求の代理人B弁護士)。請求は通らず、逆にA弁護士がXとBを不法行為で訴える。そして、不法行為が認められた、という事例だ。
そこで書いてある条件を簡単にまとめると、

① 懲戒請求が事実上または法律上の根拠を欠く
② 請求者が、通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得た
  (またはそのことを知っている)
③ 懲戒を請求した

この3つの要件を満たしていれば、違法な懲戒請求として不法行為を構成する、と、ある。

今回の場合にこれを当てはめてみよう。
まず、要件③は問題なく認められる。
次に、要件①についてだが、橋下センセイのブログによれば、被害者、国民に対しての説明義務違反が懲戒に値することであり、
弁護士法上の懲戒事由である「弁護士会の信用を害する行為、品位を失う行為」の基準は、世間の基準だということ

であるから、被害者、国民に対しての説明義務違反を懲戒請求理由としている限り、橋下的には懲戒請求は正当なものということになる。
従って、要件①は満たされないことになる。
懲戒請求に理由があるのなら、理由がないことを前提とする要件②の有無を検討する余地はない。

つまり、簡単に言えば、橋下センセイの見解からは、
「最判H19.4.24は懲戒請求が根拠の無いものである場合の判例ですから、今回のような、根拠のある正当な懲戒請求には、当てはまりませんよ。」
と、言うべきことになる。


ところが、実際、センセイはそうはいっていないらしい(「らしい」というのは、説明をした関西ローカルの番組を見られないから、ネットの間接情報を使っているから)。

法律なんて怖くない!によれば、
「平成19年4月24日判決は、当初から事件に関わっていた人が懲戒請求した事案である。しかし、光市事件の場合は、懲戒請求した人は事件に関わっているわけではないので、事案が違う。だから、光市事件の場合は不法行為が成立しない」と言う旨をおっしゃっていました。

そうで、(なお、上記の記事は判例の読み方について分かりやすく述べられています)
フツーの人からすれば、何のこっちゃ、というところだ。

このお言葉を法律的に再構成すると、2通りの説がありうると思う。
マジメに考えれば、さっき出た3要件のうちの、要件②についての話ととらえられる。
要件①と③は請求を出した人が誰であるかを問わない要件と思われるからだ。
要件②は、請求者が、通常人であれば普通の注意を払うことによりそのこと(懲戒請求に理由がないこと)を知り得た、というものであるが、
ここの「通常人」というところを、本当に文字通りに、世間一般の人、ととらえずに、
「人並みの能力を持つ、当初から事件に関わっていた人」と、とらえているのが、最判H19.4.24だ、というのが橋下センセイの主張なのだ。
事件に関わっていた人の方が、関わっていない人よりもいろいろなことを知っているはずであるから、「普通の注意」で知りうる範囲は広くなるだろう。
つまり、最判H19.4.24の基準の方が、今回の場合よりも、より広範囲に不法行為が成立することになる。

もしくは、もっとおおざっぱで乱暴な説としては、
最判H19.4.24は当初から事件に関わっていた人が懲戒請求したことを前提として、要件①,②,③を決めたのだから、事件に関わっているわけではない人の場合は、この3つの要件は全然関係なくなる。不法行為という物自体成立しえないかもしれない。
という説も成り立たなくもない。
「事案が違う。だから、光市事件の場合は不法行為が成立しない」
と、事案の違いと不法行為の不成立を直結させることをはっきり述べたのであれば、こちらの説の可能性が高い。
こっちの方が橋下センセイの性格に合ってるふいんきもある。


まあ、どちらの説を採っているにせよ、それはあまり賢くはないという感想を持つ。

前者の説であるとすれば、要件①を満たしていなければ問題にならないはずの要件②を問題にしてしまっていることが論理的矛盾だし、
後者の説であるとすれば、もっと悪い。
法律的に粗雑なうえに、ふつーの人に対しても、ふつーに分かりにくいからだ。
どうせ乱暴な説ならば、まだ
「最判H19.4.24は懲戒請求が根拠の無いものである場合の判例ですから、今回のような、根拠のある正当な懲戒請求には、当てはまりませんよ。」
と、いう方が分かりやすくてましだと思う。
中途半端に「法律家」しちゃたりするのは一番良くないと思う。

中途半端が一番ダメって、松本人志も言ってるし。


追記 9月24日

橋下さんが89ページにわたる答弁書をウプしました(それを相手方事務所にFAXしたらクレームが来たとブログで怒っていました。大量のFAXを送りつける軽い嫌がらせという手法は、ワタシは聞いたことがあったので、それほどどうとも思いませんでしたが、一部ネットではマナー違反だと不評のようです)。
あ、答弁書ね。
金にならない仕事だと怒っていましたが、金から自由になった分、オウム裁判にまで口出しして、書きたい放題やってます。
楽しく書けたのならそれで良いかと思います。

で、
結局要件①を否定する「最判H19.4.24は懲戒請求が根拠の無いものである場合の判例ですから、今回のような、根拠のある正当な懲戒請求には、当てはまりませんよ。」
を使うようだ。俺もこれが一番良いと思う。よかったよかった。
あと、因果関係も違法性もとにかく否定出来るとこは全部否定している。

争点、どうなるのかなー。
橋下さんは信用や品位について語りたいだろーけど、
それは面白くないからなー・・・。


追記 9月28日

補充
「根拠のある正当な懲戒請求」=懲戒請求が認められる
ではない。
懲戒請求が違法にならないだけ。
要件①は、単に懲戒請求が認められないということを意味するのではなく、その中でも瑕疵が大きいものを指す。
よって、要件①を満たさない、とは、懲戒請求が認められると否とを問わず、
懲戒請求の理由がないという瑕疵が大きいものではない、ということ。

答弁書では国民に対しての説明義務違反等が、懲戒理由になるとは明言していない。


・・・とか書いてたら、橋下さん、自分で懲戒請求するってさ。

記事の後半、すごく不愉快。
Commented by ばいきんぐ at 2007-09-12 22:08 x
ばいきんぐです。おひさしぶりです。
いつもわかりやすくてためになる説明ありがとうございます。
しかし何ですねぇ、懲戒請求の危険性のことも、橋下先生は言っとくべきだったでしょうね。当たり前ですけど。
最高裁判決の「射程」って、どこまで及ぶかわかりませんよね。判決の抽象度っていうのかな。具体的事例のどの部分が捨象されるのか、何が「判例」になってるのかという評価って、けっこう難しいんでしょ?
一般人が懲戒相当だと思って懲戒請求出したなら違法じゃないんだ、って言い切れるのか。橋下先生は違法じゃないと思ってても、裁判所が違法とする可能性が少しでもあれば、弁護士だったら言っとくべきだったんじゃないかと思います。違法と判断する裁判所がバカなんだ、ではすまないですよね。
もしかして橋下先生、最初のたかじんの番組のときには、この最高裁判決のこと知らなかったのかな?
Commented by k_penguin at 2007-09-12 22:52
ばいきんぐさん、お久しぶりー。
植草さんの判決が出るまで、十分持つネタが見つかって、ブログ主はほっとしております。

>何が「判例」になってるのかという評価って、けっこう難しいんでしょ?

 難しいみたいですねえ。学者の本も、まちまちなことが書いてある場合がありますものね。
特に今回は、懲戒請求の制度利用の予想の範囲を超えた使い方をされましたから、
最判H19.4.24をまんま適用するのはちょっと・・・という感じがあるにはありますね。

>もしかして橋下先生、最初のたかじんの番組のときには、この最高裁判決のこと知らなかったのかな?

大いにありえると思います。
 つか、スタジオの「打倒!弁護団」のふいんきにのっかって、弁護士的なうんちくの1つも言ってカメラに映っとこうと思っただけなんじゃないかなあ。

橋下先生については、昔、「行列・・・」で、
誤植で20万円を20円と記載してしまったパソコンの大安売りのチラシ、店は20円で売らなければならないか?
という問題に対し、表示の錯誤に何ら触れないまま、
20円で売る義務がある、と認定したのを見たとき以来、
法律知識についての不信感を抱いています。
Commented by ばいきんぐ at 2007-09-13 00:34 x
植草さん。そういえば事件からちょうど1年!
痴漢事件でも、けっこう長くかかるものなんですねー。
裁判員制度なんて、ちゃんとできるのか??

>表示の錯誤に何ら触れないまま、
>20円で売る義務がある、と認定したのを見たとき以来、

それは「型破り」すぎますねー(笑)
まー、あやしい弁護士さんって、よくいますけどね。
今回これだけ大きな問題になったのは、橋下人気のなせるわざ。
多くの弁護士先生方を敵にまわした観はあるけれど。。。
モトケンさんに至っては、

>橋下弁護士は、
> 制度としての刑事弁護の理念も
> 個々の事件の刑事弁護の現場における弁護技術も
> いずれもほとんど理解していないことがさらに明確になった。

と断言しておられますね。
橋下先生、これからどうなるんでしょうね。どうもならんかな。テレビが守ってくれるかな。

お邪魔しました。また遊びにきまーす。
Commented by k_penguin at 2007-09-13 15:30
弁護士を敵に回しても、一般大衆が支持してくれればいいやいっ!
、的なことをセンセイ、言っておられましたが、
一般大衆の応援メールだけでは、飯は食えませんからね。
弁護士の支持の方が現実的にはありがたいと思います。
まあ、一般でも、テレビ局が支持してくれれば、また別の展開があるけど。

>橋下先生、これからどうなるんでしょうね。どうもならんかな。テレビが守ってくれるかな。

 それは、ワタシもやじうま的に注目しています。
もしも、今後、懲戒請求をご本人自らやることがあれば、
テレビ局との間に、損害賠償金を実質的に局が負担する、という契約が結ばれた、
と、推測できるかな?と思ってます。
Commented by uneyama_shachyuu at 2007-09-13 19:40
こちらで、かの番組を見ていた間、金 美齢先生に、「他人をたきつけておいて自分は請求しないなんて無責任!」と一刀両断でした。この点については、弁解の余地は無いでしょう。彼の理由がまた…「お金と時間を使って弁護士がやるのはどうかと思う」とかいう理由でした…経営者と言う観点からは、分からんではないけれど、ね(笑)。
さて、件の判例については、彼の言い分としては、相争う当事者が、懲戒理由も無いのに訴えた事例、と説明していました。うちに届いた判例時報によると、長い事実関係が冷静に述べられていたので、何とも評価できないのですが、まあ「濫訴」と決め付けて、弁護士としてまあギリギリ普通の行動といえるものに対して、釘を刺して牽制する為にやったような感じも受けない事もないので、何とも言えんなあ。ただ、橋下氏の言う事に、一つだけ納得行くものがありました。
Commented by uneyama_shachyuu at 2007-09-13 19:45
続き。
「弁護士は、許認可(??うる覚え)を必要としながら監督官庁も無い。ただ登録先に懲戒権が認められているだけ。何の批判も受け入れないでいられるようになっている」…というような意味だったと思います。
確かに、そのような「治外法権化」しているのは、否めないような気がする。
弁護士関係に関する判例は、基本的に、犯罪を除いて、民事は、弁護士に優しい判決が下りやすい…という感じがしてならない、実務の現状がありますし。

ところで。
先日書き込んだ弁護士。
…どうしうよもないほど無能な感じがして…
しかし、依頼人もちょっと…という人なので、ワタクシとしては、どちらにも触れたくないなあ…でも仕事にもなるし…という感じです(汗)。
懲戒と刑事告訴の両面で脅して和解させたい、と思っているワタクシであります。
Commented by k_penguin at 2007-09-14 00:58
>弁護士としてまあギリギリ普通の行動といえるものに対して、釘を刺して牽制する為にやったような感じも受けない事もない

う~ん。
ワタシ的には、弁護士としての普通の行動の範囲内に「懲戒請求」というのはないと思うのですが、
まあ、これはそれぞれの感覚なので、何とも言えませんなあ。
ワタシの身近で見る事件では、懲戒とか、刑事告訴、という手段を使ったことがありません(そのかわり、「訴えますよ」と言ったら、本当に訴える)。


>懲戒制度
懲戒制度が弁護士に対して甘いと言われるのはよく聞きます。
しかし、制度の趣旨と、運用は分けて考えなくてはいけません。
橋下さんのいいっぷり(マスコミのまとめかたが悪いせいもあるかもしれませんが)は、
弁護士自治自体が利権の産物のような言い方です。

なんにせよ、橋下さんは、主張がわかりにくいです。
たいていこちらで補ってやらなくては使えません。
Commented by ruhiginoue at 2007-09-17 23:30
 橋下弁護士に対して懲戒請求したことがある人が知人にいます。
 弁護士会がめちゃくちゃな屁理屈で懲戒しない決定をしたとのことです。
 自分が恩恵を受けていることに知らん顔してその不正を他人に焚き付けるとは大した図々しさだと思います。
Commented by k_penguin at 2007-09-18 00:37
懲戒請求については、身近で見たことはないので、何とも言えませんねー。
まあ、橋下弁護士は決して弁護士会から恩恵を受けているとは思ってないでしょうが、
わりとそれが普通の感覚だと思いますよ。

橋下弁護士は、もう、弁護士バッヂはタレントの付加価値程度にしか思っていないのではないでしょうか。
法律ウンチクなんて、テレビで安易に言ったりすると
自分の首を絞めると思うのですが。
by k_penguin | 2007-09-11 22:30 | ニュース・評論 | Trackback | Comments(9)

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


by k_penguin