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ウィニー開発は有罪、罰金だけど

かなり反響が大きい京都地裁の判決だ。モトケンさんのとこでも、コメント数が多い。
法律的にも、幇助行為の限界例として面白いところを含む判決なのだが、ネットでの反響の大半は、そんなところにあるのではなく、「こんな判決出しやがって、これから俺たちゃどーすりゃいーんだ?!ああ?!」というところにある。
まー、文句が言いたい人は、こっちが何を言っても文句を言うと思うのだが、この判決は法律的にはそれほど無理があるものではない。
1年半以上も前にこれについて記事を書いていたのを思い出したので、とりあえず引用。
「ファイル交換ソフト開発は著作権法違反幇助かという問題は、包丁を作った鍛冶師はその包丁を使って人を殺した殺人罪の幇助犯かいうことと同じで、法律的に言えば、行為の定型性という側面から否定されるべきであり、つまり、起訴は嫌がらせだと思っていた。
でも、(中略)そこらの包丁作るのと違って、殺人のために特別に包丁を作ったと、そういう風に考えれば幇助も成り立つ」

今回の判決も大まかに言えばこのリクツだが、せっかく判決理由要旨があるのだから、これに沿って判決を解読してみよう。
まず、どの行為が幇助行為かっていうと、「ソフトを公開して不特定多数の者が入手できるよう提供した行為」。
んで、なんで「技術自体は価値中立的」なウィニーを「公開して不特定多数の者が入手できるよう提供した」ことが違法な幇助行為といえるかっつーと、「ウィニーが著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、広く利用されていたという現実の利用状況の下」「ウィニーが一般の人に広がることを重視し、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を十分認識しながら認容し」てやったからだ。
幇助行為は、正犯の行為を物理的に容易にしただけでなく、心理的に容易にしたことも含むが、この判決は心理的に容易にした面を重視したので、結果、行為の主観的態様が重視されている。
物理的な容易性だけを問題とすると幇助の成立が広くなりすぎるので、絞りをかけるという意味で心理的な容易性を重視したのは妥当だと思う。
なお、ここで注意しなければならないのは、単なる内心故に処罰されることは決して許されない、ということ。何らかの形で内心が行為に出ていなければならない。

次に、社会的な影響が大きいことを認めておきながら、量刑が割と低い(でも執行猶予はつかない)あたりが面白い。
これはオカネ目当てでやったことではない、ということもあるが、ネット上の著作権制度っていうのが、まだ社会的に確立しきっていないことをも伺わせるような感じがする。

ウィニーに限らず、ネット上では、法律が今まで想定していなかった事態がちょいちょい起こる。
ネットゲームの世界にインフレ起こして荒稼ぎしても不正アクセス禁止法でしか処罰されなかったり、HP上の子供の写真をよろしくない使用をしても、事実上刑事罰が困難だったり。
ネットの力を利用して、個人が社会的に大きな影響を与えられる力を持つようになった今では、個人の規範意識の高まりが社会的に要求されるようになるのは当然の流れと言えよう。
自分でまともな振る舞いが出来なけりゃ、上から規範を押しつけられても仕方がない。
その点で、技術開発の可能性を主張する一方で、不正使用についてちゃんと「悲しいと思っている。やめてもらいたい」と述べた被告人のコメントはうまいと思った。
・・・ちゃんと勉強してるよねー。

追記 12月18日
寄稿:白田秀彰氏Winny事件判決の問題点 開発者が負う「責任」とは
やっぱりプロはよく書けてるなあ。

モトケンさんとこの関連エントリ
鼻水が出そうなほど高度な議論になってるような気が・・・。

追記2
二審は無罪。
Commented by uneyama_shachyuu at 2006-12-15 11:30
判決理由の要旨を拝見しましたが、裁判所の理論構成としては、行為の客観性について、幇助の性質が明らかに認められることを断言した結果、結局、単純に「幇助の故意」の内容の定義づけ如何が、本件の問題点だったというだけだと考えました。
…どちらにせよ、ワタクシは怖くて使えないソフトだったので、罰金だろーが懲役だろーが、どちらでもOK!…というのが本音なのですが(笑)。でも、同学年、なんだよねぇ(汗)。
Commented by k_penguin at 2006-12-15 15:25
んー、いろいろ考えましたが、判決は、幇助行為の違法性(実行行為性)の判断において、主観的要素を重視しているふいんきです。
つまり、やや行為無価値的に考えているんだと思います。
本判決を結果無価値的にとらえれば、uneyama_shachyuuさんみたいな理解になると思います。

私もこの手のソフトが必要になるほど映画を見たり、ゲームをしたりするわけではないので、基本的に他人事です。
そーいえば、ウィニーを介するウイルス「キンタマ」って、新聞に名前が載ってるのを見たことがありませんねえ。
「イチコ゜」の方は載るのに。
Commented by uneyama_shachyuu at 2006-12-15 16:17
日本の刑法理論は、行為無価値という説においては、色々な説があります。大谷先生の説を採れば、ワタクシのような判断になります。違法性判断は、ほぼ形骸化する考え方です。ワタクシの考え方は、司法試験以来、ずっと大谷説なので、行為の構成要件該当性と違法性該当性については、構成要件該当性での判断に尽くされる(※違法性のある行為の類型が構成要件であると考えきる説)、という考え方ですので、違法性判断は、違法性阻却事由のみの判断と考えていると理解して下さい。つまり、この考え方ですと、そもそも構成要件に該当し、違法性を帯びるには、まず故意の有無も当然見る、ということになり、実に単純化されます。そこんところヨロシク。
Commented by uneyama_shachyuu at 2006-12-15 16:30
また、ワタクシにはよく分からないのですが、「幇助行為の違法性(実行行為性)の判断」というのは、一体どういうものなのでしょうか?
違法性というものの定義が分からないのですが、日本において、違法性について核心部分は、法益侵害について争いがありません。これについて、法益侵害までの行為の規範的違反まで評価の対象とするというのがいわゆる折衷的行為無価値論である、と認識していますので、実行行為性の意味が、今ひとつワタクシには理解できません。構成要件そのものが、違法・有責類型とされている以上、まずは構成要件の該当性そのものが争われるのが第一と考えますので、違法性というよりは、単純に構成要件上の故意(主観的要件)の有無を争っているように考えました。
Commented by k_penguin at 2006-12-15 21:26
>幇助行為の違法性(実行行為性)の判断
あー、これは、違法性類型としての実行行為性の判断とゆーよーな意味です。
このケースでは違法性阻却事由や責任阻却事由が問題になっていないのは確かなので、間違いなくそれは構成要件該当性、つまり実行行為性の問題なんですが、
判決要旨では「幇助行為として違法性を有するかどうかは、(いくつかの要件と共に)提供する際の主観的態様によると解するべき」と書いているので
特に違法性面の判断として主観的要素を入れたように読めて、
で、行為を客観面と主観面にはっきりと分けているわけではないあたりが行為無価値っぽいと思ったわけです。

まー、主観的要素と言っても、結局実行行為の表象・認容の判定しかしていないので、それは構成要件的故意に違いないのですが。
故意が違法性要素かっていうのは、主観的要素が違法性要素かと絡んで、一応争いあったと思いますが、まー、そーゆーのはどーでもいいと思うんですよね。結論変わらないし。
Commented by k_penguin at 2006-12-15 21:26
結局この類の幇助では、成否を分けるのは故意の認定に係るだろうと思われます。
その意味でuneyama_shachyuuさんの理解の方がわかりやすいですね。
モトケンさんがコメント欄で
「本件のような不特定多数の者を対象とする概括的幇助の事案では、対象となる不特定多数の集団のモラルが一定以上のレベルに維持されているのかほとんどないのか、という問題が、幇助の故意の認定に大きな影響を及ぼすと考えています。」
といったのが興味深かったです。
Commented by uneyama_shachyuu at 2006-12-16 01:32
ワタクシは、構成要件で規定されている「行為」…どういう「故意」をもって、どのような「実行行為」をし、それと「因果関係」のある「結果」を起こしたのか…という「広義の行為」全体が違法・有責類型である、と大谷説で理解していましたので、実行行為と結果、その因果関係を文字通り形式的に判断している以上、その「狭義の行為」(実行行為)が違法性があるか?というのが「故意」の内容にかかっている、という表現に見え、それは、構成要件該当性判断の上で、ごくごく「当たり前」の事にしか感じられなかったので、全く悩みませんでした(汗)。というより、こういう訓練ばかりしていたので悩む余地が無かったのですが(笑)。
Commented by uneyama_shachyuu at 2006-12-16 01:43
とまれ、何しろ「著作権をぶっ壊したかった」という調書が、どこまで採用されていたのか?法廷でやはり発言したのか?全く知らないので、何とも言えないのですが、大体、こういうソフトを出せば、著作権を侵害しかねない時代であったことは、あれほどネットをしていた人ならば「理解できように…」と、一般人の感覚からは判断できるとも思いますので、裁判所の言う事にも一理ある、と思いました。これほど個人の行為の影響が世界にまで広がる世界であることは、単に「不特定多数」という従来の言葉ではどうも表現しにくいというか、その範疇を超えているような現実があるような気がしまして。そんな「不特定多数」にモラルを要求するのはそもそも不可能で、その多数に直接的な接触が可能なネットでは、ついうっかり…が中々許されない時代になってしまった、ということでしょうか?
Commented by uneyama_shachyuu at 2006-12-16 01:46
た~だねぇ…ここでも口に出せない「著作権木っ端微塵ソフト」が外国から発信され、どんな人でも知識があれば使っている常態なのを知っているので、このソフトだけを取り上げたのも、「運が悪かったねぇ。『日本』でやっちゃって」というのがワタクシの本音でして(汗)。
Commented by k_penguin at 2006-12-16 02:49
ワタシは刑法は、団藤+前田で何の疑問も感じない、というおおざっぱさです。
幇助犯は修正された構成要件で、定型性が弱いから、どっかでしっかりその処罰性を検討しなくてはいけないな、という意識はありますが、その「どっか」が実行行為性だろうと、故意だろうと、まあ、どっちでもいーんですね。
でも故意の話にした方がわかりやすいだろうな、とは思います。

被告人はかなりのお利口さん(少なくとも某経済学者よりも)とお見受けしています。
多分法廷で「著作権をぶっ壊したかった」などと言うようなヘマはしていないと思いますが・・・どーかなあ。

ネットの世界は今までの常識が通用しない面が多々ありますね。
まあ、これから規範が形成されていくんだろうとは思いますが、とりあえず、自衛を図らなくてはですねえ。

>「運が悪かったねぇ。『日本』でやっちゃって」
それも運がないかもしれませんが、もっと運が悪いのは、正犯者だと思います・・・。
ファイル交換ソフトについては、外国においても民事、刑事の裁判例があるようです。新聞にいくつか載っていました。
刑事はたいしたこと無いですが、やっぱり民事の損害賠償請求がキツイですな。
Commented by ペンギン666 at 2006-12-29 19:49 x
情報漏えいした公務員が罰せられていないのに
開発者は罰せられるというのは理不尽。
Commented by k_penguin at 2006-12-29 20:00
公務員の情報漏洩の罪の幇助としてウィニーの作者を罰するのは無理だと思います。
故意の証明がまず出来ないでしょう。
だから、この件に関しては、公務員も罰せられてないし、開発者も罰せられていないと言うべきです。

作者が罰せられたのはあくまで著作権法違反です。
by k_penguin | 2006-12-15 01:23 | 裁判(判決評) | Trackback | Comments(12)

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


by k_penguin