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火事とケンカはネットの華

さて、今回のネタは、モトケンさんのブログだ。
よく記事を取り上げるブログだが、今回取り上げるのは、記事自体ではなく、コメント欄でのバトル。
このバトルを取り上げる理由は、これが引用と著作権侵害という、ネットでありがちなパターンでありながら、その本質についてあまり多くの人がわかっていないだろうと思われるテーマを持っているからだ。
別にケンカを楽しんでるわけじゃないよ。ほんとだよ。

このバトルは、13個目のコメント、2006年05月28日 14:36 ぴぽぷさんに始まり、その19コメント後の、2006年05月28日 23:19 ぴぽぷさんのコメントで終了している。

バトルの中心となる事実は、モトケンさんがヤフニュース(from毎日)の記事を全文引用したことだ。ヤフニュースはすぐ消えてしまうことや、記事全体から感じ取れる雰囲気も読み取ってほしいという意図であったと思われる。

さて、引用が大量なため、著作権法で許される「引用」の範囲を超えているのではないか、というコメントを、まずは低姿勢で入れたぴぽぷさんだが、モトケンさんのレスの「正直言いまして厳密に考えるとやや問題かなと思っています。」という一文で、ヒートアップしてしまった。
ただ、俺の見立てでは、ぴぽぷさんはいわゆる荒らしではない。
多分本当に法を侵害していると思って、純粋に憤っているのだ(ネットには時々このような正義感が強い人が出没する)。
ぴぽぷさんの考えによれば、引用が正当な範囲内かどうかは、「引用が50%を越えないことという基準で考えれば良い」の量的基準の一つだけだ。当該エントリーで分量の割合が逆転すれば、それだけで違法状態になる。記事内容や他のエントリー、営利非営利も関係無しだ。
だからモトケンさんが「質」(つまり内容)を問題にしても、「また、本記事は質的にも主従が逆転しているとも思いましたが、 分かり易い量的な話に限定しました。」と言うにとどまり、「質」は重要ではない、もしくは、相手の言い抜けの便法にすぎない、ととらえている。

確かに「質」の判断は難しく、「量」はわかりやすい。50%という数字が出ればますますわかりやすいだろう。50%という数字は初耳だったが、なるほどね、と、俺は思う。
しかし、本来、引用というものが著作権侵害にならない理由は、報道、批評、研究活動に必要な正当な行為だからだ。つまり、主体となっている記事が何を目的としている記事なのか、内容判断は不可避なのだ。
モトケンさんは以前から裁判員制度については折に触れて取り上げている。それらのエントリのいくつかは、関連エントリとして当該記事にリンクされている。それらのエントリも含めて記事としてとらえるべきではないか、とも考えられる。

ところが、著作権法の解説を始めたモトケンさんにぴぽぷさんは怒ってしまった。
「量」の話を無視して法律の話なんか始めたので、自分の違法を認めたくないがために論点をずらそうとしている、さらには著作権法自体にけちを付けて自分を正当化しようとしている、ととらえたのだ。
法的な会話が成立しなければ、法廷に出してお上の判断を仰げとしか言いようがない。
で、そう言ったモトケンさんを、ぴぽぷさんはハッタリととらえた(訴訟をするという言葉は法律家にはハッタリにならないが)。
おかげで、「とりあえず、著作権者のYahooと毎日新聞に今後の対応を委ねることにします。」ということで終了した。
本当にヤフに連絡したかどうかは知らないが、どっちでも結果は変わらないだろう。


ネットにおいて、著作権は名誉毀損と並んでよくケンカの種になる。
バトル的にいえば、この場合、「親告罪」で対抗するのが一般だ。
この手の著作権法違反は(名誉毀損も)親告罪だから、告訴権者が告訴しなければ罪に問われず、赤の他人があれこれ言うことではない、と返す。
なぜかモトケンさんはこれを使わなかった。
なんにせよ、外野の俺には、ぴぽぷさんのコメントから、「引用」についてこのように認識する人もいる、とわかっただけでも収穫だった。

俺は引用基準については、著作権法の本に載っていた最高裁判例しか知らない。判例によれば明瞭区別性と附従性(主従関係)が要件だが、俺はこれを、「ふつーにやってりゃオケ」と意訳している。
自分の記事を書くのに必要な範囲内を引用とわかるように引用すればいいのだ。
「引用」は何も特別なことを言っているのではない。評論のため必要なことならふつーな範囲でやっても良いよ、ということを言っているだけだ。


ところで、この記事を書いている一方で、2ちゃんでは、2ちゃんの面白いスレを集めたブログ(見てないが、アフィリエイトで稼いでいるらしい)への対策が問題となっている。
削除人のFOX氏が(彼は高校生だという噂を昔聞いたことがある。2ちゃんの削除人になるのに選考は特にないからあながち否定も出来ない。)いきなり無断転載の禁止をブログ管理人に向け発表するなど、('・ω・`)な対応をしているようだ。
これは「引用」の問題ではなく、著作権は誰にあるのかといった問題なのだが、それでもネットでの「ふつー」が難しいことを示していると思う。

法律というものは、本来、「ふつー」にやってる人を守るためのものだ。ふつーにやっていればまず違法状態にはならない。はず。
しかしネットでは刻一刻と「ふつー」が変わってゆく。おまけに著作権法はハナからグレーゾーンが大きい。
みんな自分の正当性をどっかで疑っているから、結局声の大きいものが勝ってしまったりもする。
「ふつー」って意外と難しい。


余談だが、ぴぽぷさんの言ったことで、もう1つ面白かったのは、「引用元がWebサイトだったら、リンクを使えばいいだけですよね? 向こうが消されたら困ると言うのが著作権者を無視した行為なのです。」という部分だ。
リンクを特別視するあたりがおもしろいのだが、この論法でいけば、画像の直リンは著作権上の問題が起きないことになる。
いや、実際問題ないのだが、外観は変わらないのに、自分のサーバーにダウンロードするか否かで法の扱いが変わる、という問題意識は出ないであろう点が面白かったのだ。
なお、「向こうが消されたら困る」に関しても、それが保護されるべき利益かどうかは議論の余地がありそう。当然新聞記事か個人の日記かで変わるんだろうなあ。
by k_penguin | 2006-05-30 18:57 | ネット(ヲチ?) | Trackback | Comments(0)

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


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