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死亡時刻の決め方

「世界で一番受けたい授業」で養老先生が死ぬことについての授業をしていたので、ちょっと記事を書くことにする。

ワタクシ事なのだが、今月に入ってほとんどブログの更新がなかったのは、親父が亡くなったからだ。
親父はここ1月ほどガンで入院していた。
死亡した夜は、前からこのあたりじゃないかと見当をつけていた日だったが、泊まり込みをしていたのは俺だけだった。
親父は7倍の酸素マスクをして呼吸も脈も血圧もしっかりしていたが、もうほとんど1日中眠っていた。俺はラーメンズ「釣りの朝」で片桐が歌っていた魚の3倍ゲームの歌を魚が2187匹になるまで繰り返し歌い、病室備え付けのCATVを見ていた。
午前2時頃、看護士が、血圧が急に下がったので、奥様をお呼びした方がよろしいかもしれない、といった。
先月亡くなった隣の病室の人は、このような状態になって心電図の機械が入ってから24時間ほどもっていたし、親父の呼吸と脈はしっかりしていて、外見に何の変化もなかったし、車も持っていなくて隣の県に住んでいるお袋に午前2時に連絡するよりは、列車が動き出す早朝に連絡した方が良いと思った。
午前3時半頃、ナースが鼻からチューブで痰を取り除いてしばらくたってから、親父は不意にくしゃみを1つして、それを合図にぴたりと呼吸を止めた。
びびった俺はナースコールを押し、ナースが2人飛び込んでくる前に親父はまた呼吸を始めた。
俺の説明を聞いて、ナースが枕などを直している最中に、親父はまたくしゃみを2回して、それっきり呼吸をしなかった。
俺が親戚一同に電話をしている間に心電図の機械がやってきた。
ナースが親父の肩をたたきながらかわいらしい声で「**さん、ほら、呼吸してえ!」と言った。
**さんはもう呼吸する気なぞないことは俺にも判っていたが、突っ立って眺めているわけにもいかないので、耳元で怒鳴り立てる役を引きうけることになった。
脈は基本的に0で、時々50から250になった。
もう事実上死んでいるのは確かだったが、「奥様」が看取ったという形を取るためには放置して脈を0で確定させるわけにはいかなかった。
俺はお袋がやってくるまでの1時間半、中腰で怒鳴り続ける羽目になった。正直止めたかった。それは確実に周りの目のためだけだったから。

自家用車を持っている親戚の方が先に到着し、その後にお袋がやってきた。
お袋はやってくるなり、泣きながら親父を揺さぶりだしたので、ようやく俺はその、TVドラマのワンシーンのような場を離れ、腰に手を当ててミネラルウォーターを飲んだ。
フットボールアワー岩尾に似た当直医がやってきた。
脈は相変わらず、ときどき跳ね上がっていたが、当直医は心電図も見ずに死亡を宣告した。


血圧が下がったのが午前2時、呼吸が止まったのが午前3時半、死亡時刻、午前5時半。
死亡時刻は死ぬ人が決めるのではなく、周りが決めるのだ。
by k_penguin | 2005-12-18 01:01

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


by k_penguin