『LENS』(再見) 君の普通は普通じゃない   

2005年 11月 18日

KKP第4作である『LENS』を最初に見たのは9月末だが、そのときはメモ程度にとどめておいた。
なぜならまだKKP第3作『PAPER RUNNER』を見ていなかったし(ツタヤに在庫がなかったからね)、ラーメンズのDVD-BOX2の評論の方が先だったからだ。

そのときのメモでは、制作動機がよく判らない、最後のツメが「釈然としない」(劇中でもそう指摘されている)。という点だけあげておいた。
しかし、考えれば考えるほど釈然としない作品なのだ。



まず、ミステリーという形式を取っていながら、「制作動機」について思いが及んでしまう点だ。
ミステリーはミステリーだ。謎があり、解決があり、すっきりする。カタルシスがあるかどうかが問題で、本来「制作動機」なんて問題にはならないはずなのだ。
最後が釈然としないことによって、カタルシスが少ないというのなら、単に失敗作と評価すべきなのだ。
しかも、釈然としないことを劇中で指摘してしまっている。これは釈然としない結末にしたということ以上に問題だ。
これは言ってみれば、料理人が「生クリームがなかったからソースがかかってないんですけど、すいませんね。」といいながら未完成の料理をテーブルに出すようなもので、決してやってはいけないことなのだ。
生クリームがなかったら、生クリームなしでできる別の料理に変更するべきである。それがランクの落ちる料理だったとしても。
つまり、この作品はミステリーではないのだ。天城が言うとおり「人も死ななきゃ何も盗まれない、犯人は初めから疑われている人、そんな推理小説なんてありえない」。
そうとらえなければ、あり得ないくらい破綻している作品ということになる。
『LENS』はミステリーの体をとっているだけでミステリーではないのだ。『PAPER RUNNER』で読者にうけるマンガの体を取ったのと同じことだ。
彼の作品は全て、何かの「体をとっている」だけなのだ。ミステリーの、マンガの。
ではその実質は何か。
コントだ、というほど私は人が良くない。彼の作品に関しては、コントも「体」の1つだと思っている。

小説家天城の作品はまるでウケが悪い。説明不足がひどいからだ。よく言われる小林賢太郎の欠点と同じだ。
天城は言う。「全部説明したら面白くないよ。これだけ説明しとけば普通、わかるだろ。」
それに対して駒形は「君の普通は普通じゃない」と返す。
駒形の「普通」とは何か。
ここでいえば、「ミステリーという枠」だ。
ミステリーにだって、矛盾していたり、後から考えるとよく判らない部分が残っていたりするものはたくさんある。それらの説明不足は非難されないのに、なぜ天城の作品だけが非難されるのか。
それは枠を無視しているからだ。
怪盗カマキリ仮面が機関車を消滅させておいて、そのトリックを明かさないで立ち去ってしまったりするからだ。それはミステリーの枠ではない。手品ならありだけど。
受け手は「枠」に相応した量の作業をすることを予期している。作業の質や量が変わればとまどって当然だ。それが「説明不足」という言葉になる。
こんなこともちろん、作者たる小林は知っている。
というか、これこそが『LENS』のテーマであり、製作動機なのだ。『LENS』は「枠」を無視して中身そのものを判断することを受け手に要求する作品なのだ。
(ト書き  俺、天城から虫眼鏡を受け取って舞台中央に進み、観客のほうを向く。)
『LENS』において観客はそれがミステリーではない、ということに気が付くことが要求されていたのだ。だってそんな推理ものはないって天城本人が言ってるもの。「普通、わかるだろ。」

私は小林の作品が説明不足だと思ったことはない。彼は非常に整理された的確な情報を与えている。『雀』を除けば、少なくとも彼は他人に理解させようとする努力を放棄したことはない。
ただ、受け手に要求する作業量が受け手の予想よりも遙かに多いのだ。
小林賢太郎の作品を支持する人にクリエイターが多いのも、「枠」を作る作り手側であれば、「枠」からある程度自由になれるからだ。

『PAPER RUNNER』を見た後の今になってわざわざまた『LENS』を見直した理由は、実はテーマが後退していると思ったからだ。#3『PAPER RUNNER』では「枠」を探そうとしているのに、#4『LENS』の方では「枠」を無視しているという自己認識の段階で止まっている。
『百色眼鏡』の作られた時期からして、『LENS』の台本の方が『PAPER RUNNER』よりも先なのではなかろうか。

・・・てゆーか、こーゆー心配を起こさせるってこと自体が、作品が枠にちゃんとはまってないって証拠なんだよ。既存の枠にはまって無くてもいいから、自前の枠はちゃんと作ってくれよ。


おまけ

オリコンの「好きなお笑い芸人ランキング」でラーメンズは27位。
テレビに1個も出ないでスピードワゴン(28位)超してるって、すげーなあ。

追記 2006-3-30
『LENS』にはフライヤーが4種類ある。
この話は4通りの読み方ができる、ということではないだろうか。
『LENS』単体で2通り(ミステリーとして、ミステリーじゃない話として)、『百色眼鏡』とあわせて1つの作品として解釈して2通り(天城という探偵が生まれた経緯の話として、そして、『LENS』という作品がなぜ作られなければならなかったかという経緯の話として)。計4通り。
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by k_penguin | 2005-11-18 03:34 | エンタ系 | Trackback(1)

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Tracked from ペンギンはブログを見ない at 2006-09-16 01:40
タイトル : 現代コバケン概論(教材『LENS』副教材『百色眼鏡』)
講師、入室 「はい、みなさんこんにちは。 えー、まず、この特別講義を始めるに当たって、是非とも言っておきたいのは、 これはフィクションであって実在する個人、団体とは何の関係もございません、ということね。 これだけはちゃんとアレしておかないと、いろいろアレだからね」 「じゃ、講義を始めるけれど、これは、『LENS』という作品の創作の過程及び解釈についての推論の1つを論ずるわけで、だから、あらかじめ『LENS』と『百色眼鏡』は見といて欲しいのね。掲示、出てたでしょ?みんな、見たよね。うん...... more

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