小林賢太郎演劇作品『ロールシャッハ』 2012年版

最初に言っておくが、この作品に関しては俺はかなりハードルをあげている。もう食わず嫌いに近い。
というのも、初演版があまりにひどすぎたからだ。ひどいだけではなく、憂鬱な気分にさせられた。話はあらかた忘れてしまったが、その印象だけは残っていて、今回は舞台に集中する気になかなかなれなかった。

チケットがはけるスピードはいつもよりも遅く、地方公演の一部は売れ残っているようだったが、本多劇場は相変わらず満席で補助席も出ていた。
劇が始まっても、俺は前に述べたような理由でなかなか集中できず、テレビをつけっぱなしにしているような感じで、ぼーっとしていた(腹話術の人形は右手であつかうんだな…)。
話は前回より整理されていたが、それでも、よくわかんない設定の国のよくわかんないプロジェクトにかり出された人たちの空騒ぎという風情だった。
なぜ大砲を1発撃つのに3人がかりなんだろう。なぜ撃つ直前になってから砲身を掃除しなくちゃいけないんだろう。力持ちと細かい奴がいるのに、なぜ誰が装填係になるか方角の計測をする係になるかをさくっと決められず、全部の可能性をいちいち試すんだろう。なんだか「おかあさんといっしょ」日曜ライブの子供向けの劇みたい。
しかし客は良心的で、最初からどっかんどっかん受けていた。隣の席のおばちゃんははしゃいでいた。
半ば過ぎ、富田と串本の夜の会話あたりからやっと舞台に興味を持てた。会話内容は前回よりよく整理されていて、特に串本のしゃべりだしを変えたのは良かったと思った。でも隣のおばちゃんは寝てしまった。

最後の方で、大砲を撃つプロジェクトの真の意味が明かされ、撃つかどうかの鳩首会議のあたりも、内容は変わっていないが、話の流れが良くなったため、いろいろ誤魔化せていた。まあ、2回目でなれてるのもあるかもしれないけど。
大砲を真上に打ち上げれば、打ち上げたところに落ちてきて、砲弾を手でキャッチできる。という、常識に反する事情も、大砲を固定すればできる、というシステムらしい。

壁が「鏡」であるという説明の後にここが鏡の世界のパラレルワールドであることの説明がやや丁寧にされて、この点でも前回から改善されていた。
前回は「鏡の世界」であることに何の意味も見いだせなかったが、今回は、早い目に説明がされたせいか、
 現実世界に、右利きのこの4人がいるんだなあ。
と、想像する余地があった。
この、「想像すること」が作者のやりたかったことなんだと思う。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただ、「想像すること」。
想像するという言葉から、そして、「正義の反対は悪じゃなくてもう1つの正義」という台詞があるからといって、ジョン・レノンの「Imagine」と連結させてはいけない。
作者が想像して欲しいのは、平和とかそーゆーことじゃなくて、「右利きの4人」だ。
舞台の上の左利きの4人はお芝居というパラレルワールドにいるけど、「右利きの4人」は「現実」にいて、
自分の性格やら自分のやってることを正当化する理屈(この話での「正義」はそういう意味でしかない)やらの問題を抱えて
悩んで、少し成長したり、初演版より少しましな芝居を作ったりしてるってことだ。
つまりは「僕のこと考えて」といっているのだ。
それ以上でもそれ以下でもなく。
まあ、毎度のことだよね。

舞台の上で、左利き達は、まあよかったね。という感じのラストを迎えた。
作品自体も、前よりはまとまったんだから、まあよかったね、と思った。
おばちゃんは、大砲を撃つプロジェクトの真の意味が明かされたときも寝ていたが、終わり頃には起きていて、カテコで小林さんの登場に飛び上がらんばかりの拍手喝采をしていた。
多分そーゆー見方が正解なんだろうと思う。まあ良かったね。
 ということで、俺は1回目のカテコの後の、本部からの終了の放送を聞いてから外に出た。
中では再びカテコが始まったらしかったが、もう興味がなかった。
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Commented by ぽんたろう at 2012-10-27 21:25 x
観てきました。
ひとことで言えば、毒にも薬にもならない。
私は初見ですが、ただ見てるだけ、という感じでした。

好き嫌いの話は、多摩美の講義でもしてたそうですが、
このテーマを語りたいなら、「人は往々にして嫌いな
ものを好きと言う。その逆もまた然り」ってとこを
掘り下げたら?と。
まあ、できないか。小林さん演劇人じゃないから。

しかし、いつまで“坊や”で居る気でしょうかね。
あ、いつまでも家に居る気か(笑)
Commented by k_penguin at 2012-10-27 23:25
毒にも薬にもならないし
それを狙って作っているのだと思います。
大砲を撃つプロジェクトの真の意味が明かされるあたり、
総司令官からの巻物(命令)を壺井が後ろに放り投げてドラム缶に見事命中、
という技が入っています。
ああいうことされると、ストーリーへの集中が邪魔されるし、深刻な雰囲気も害されるんだけど、
ちょっと深刻な雰囲気、つまり「毒か薬」になりそうな雰囲気になったら
茶化す方向に流してしまう。
作者的には
多くの人に気軽に楽しんでほしいからそうした。
か何か言うんだろうなって思いますが、それは間違いだと思います。

好き嫌いという価値観しかない残念ぷりについては、
もう諦めてます。
そういうことだがら「おわってる」「素人が」などという薄っぺらい言葉に
いちいち頭抱えることになるんだけどな~…。

ただ、ラスト、「好きにする」という選択で大砲を壁に撃ち込まないことにしたくだり。
前回の公演で私は
責任の概念がなく好き嫌いしかない者に正義という概念は存在しない
と書いたと思いますが、
今回は「好き嫌い」という価値観で「正義」を見事解決したように見えるので、ごまかしが上手だと思いました。
Commented by at 2012-11-13 20:13 x
初めましてこんにちは。よく拝見させて貰っています。壱と申します。
突然で申し訳ないのですが、ふと疑問に思った事があります。k様は何故小林さんの舞台を観に行かれるのですか?
過去の物含めて感想拝見させてもらいますと、あまりよく思っておられないのかな、という印象を受けました。違っていましたら、申し訳ありません。
これは私の場合ですが、好きではなかったり、いいと思わなかったり、興味を持てない物を見るのははっきり言って苦痛です。ましてや舞台ですから、チケットを取る手間やお金、観劇に割かれる時間は決して少なくはないかと思います。退屈な物をそこまでして観に行かれるのは何故ですか?もし宜しかったら、理由をお聞かせ下さい。
ご理解されているかと思いますが、一応誤解のないよう申し上げておきますと、別に「悪い事を言うのなら観に来ないで!」等と稚拙な事を思い質問させて頂いたのではありません。人によって好みや価値観に違いがあるのも解っていますし、誰にも観劇する権利もあると思っています。もしこの質問や私の書き込みで不愉快な気持ちにさせてしまったなら、申し訳ありません。宜しければ、ご回答の程宜しくお願いします。
Commented by k_penguin at 2012-11-14 00:53
壱さん、コメントありがとうございます。
その質問は時々受けます。
答えはそのたびごとに違うような気もするんですが。
また、私の小林さんの作品に対する気持ちも少しずつ変わってきています。
だから、今の私の答えを書きます。

私にとって、嫌いと興味ない、は別物です。
興味が持てない類いの「嫌い」でしたら見ないで済ませますが
嫌いであっても興味を持つものもあります。
そういうのは多分、自分の中にある「嫌いな自分」と
どこかで共鳴しているのではないかとワタシは考えています。
小林さんの作品との対話は、自分との対話のようなものでした。

最近は、何となくその状態から抜け出し始めて、
興味ある「嫌い」から、興味ない「嫌い」に移行し始めています。
それは自分との折り合いがつきだしたと言うことなのかもしれないし、
それはそれで、めでたいことなんだろうけど、
それならそれで、ちゃんと
どういう状態から抜け出して、いかなる状態に至ったのか、
それは何故なのか、そして小林さんは何故抜け出せない(or抜け出さない)のかを
説明できるようにはしたいな、と思っています。
最近は主にそういう理由で見てますね。
Commented by at 2012-11-14 18:37 x
こんにちは。k様、お早いご回答ありがとうございます。
言われてみると確かに、好きと嫌いだけでは済まない事も多々ありますね。当然の事なのに考えが及びませんでした。「嫌い」な小林さんの作品を通して「嫌いな自分」と向き合われていたのですね。折り合い、着くといいですね。k様の感想が読めなくなるのは寂しいですが……。私も向き合わねばと思いました(最早小林さん関係なくてすみません)。
余談ですが、私が思うに小林さんは抜け出す気がないのだと思います。そういった意味での向上は目指していないのではないでしょうか。あくまで自分にレベルを合わせてくれる人を求めているのでしょうね。
こんな失礼な質問に、丁寧にお答え頂いてありがとうございました。これからも様々な感想レポート楽しみにしていますね。
Commented by k_penguin at 2012-11-14 23:25
>小林さんは抜け出す気がない
 ワタシも現在の彼は抜け出す気がないと思います。
以前は抜け出したがっていたのに。
そしてそれがワタシの彼への興味が薄くなっている理由の1つでもあります。
ワタシは彼が、自分と向き合うことから逃げた、と感じています。

いやそうではなくて、抜け出さないことを選択したのだ。
 と、考える余地もありそうですが、
そう言い切れるほどには作品にきっぱりしたところが無い。
寂しい寂しいと相変わらずぐちぐち言ってるし。
寂しいのは
彼だけがおろおろ決めかねているうちに
抜け出すタイミングを失したからだと思うんだけど。


最近仕事が忙しくなって、
あまり作品と向き合うことに精神力を注げなくなっていますが
コメントあるとそれをきっかけにまた考えたり出来るので
コメントはありがたいです。
壱さん、これからもよろしく。
by k_penguin | 2012-10-21 02:29 | エンタ系2(ライブレビュー) | Trackback | Comments(6)

法律事務所勤務。現代アート、NHK教育幼児番組、お笑いが好きな50代。


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