『THE SPOT』その3 医者編 縦のものを横にする   

2011年 05月 30日

医者の話は『SPOT』から最も大きく変わった話だ。
まず、『SPOT』の方のあらすじ。
効果音とマイムでつづる話。一種のサウンドノベル。
最初の患者は何でもかじってしまう小人みたいにちっちゃい奴(マイムだから姿は分からない)
次はお腹が痛い恐竜。原因を探るため、お医者さんみずから恐竜の中に入る。
 懐中電灯を胃の中に忘れてくる。なぜかそこには最初の患者がいる。
そいつは何でも食べてしまう「悪玉菌」だったらしい。悪玉菌を捕まえて外に出て、戦うお医者さん。
悪玉菌を料理して食べてしまうが苦しみだし、何か(悪玉菌?)に変身。

何でも食べてしまう「悪玉菌」は、『ポツネン』におけるジョンと似ているが、ジョンほどは大きくない。またKKTV2のバクの最初の頃にも似ているが、それほど大人しくはなさそうだ。
どちらにせよ、それは、小林さんがずっと手こずっているアレの姿の1つなのだろう。
恐竜(怪獣かも知れないが)は、小林自身ととらえて良いと思う。

だとすると、そいつをただ捕まえて食べてしまうのは、自分自身を治療する方法としては良くないことになる。
ではどうすればよいのだろう?
自分を治療するにはどうすればよいか。
問題の原因が起きた当初までさかのぼり、そこからやりなおすことだ。
そこで、『THE SPOT』ではかなり丹念に「さかのぼってやり直す」ことが行われ、結果、無事に治療は終了している(あくまでも彼の中ではの話だが)。

と、まあ、要はそういう話だ、と、思うわけ。

で、こっから、もう少し詳しくなるけど、
話がややこしい割には実のない話だから、読む人はそれを覚悟してね。





「怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない
汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ  ニーチェ」



『THE SPOT』版医者話、あらすじ

最初の小さい患者、削除。
次に膝に水がたまっている恐竜がやってくる。
口から中に入る。
身体の中で小さな怪獣発見。取り逃がす。

懐中電灯を忘れたので、警官に尋ねると、弁当屋に案内される。
弁当屋は懐中電灯ではなく「怪獣弁当」を扱っている。

a.
「俺」は子供の頃迷子になったときのことを思い出す。(踏切のシグナルの音)
コインをひろったので、自販機でジュースを買うと、おつりが際限なく出てくる。
ポケットに小銭を詰め込みながらなんだか逃げなくてはいけない気分になり、その金で、一番遠くに行ける切符を買い、電車に乗る。
電車は気持ちよくて、眠ってしまい、気がついたら降りる駅を通り越して一面の雪の中。
歩いていると、灯台を見つけたので、中に入り、螺旋階段をひたすら上る。
てっぺんの部屋には、ラジオ。スイッチを入れると、ザーザーいう。
その音はやがて、フライパンがジャージャーいう音に変わる。
怪獣弁当を作っている弁当屋。弁当屋は、「懐中電灯?ほい、怪獣弁当」と弁当を差し出す。店を閉め、雨の中を走り出す弁当屋。雨の音はまたフライパンがジャージャーいう音に変わる。「懐中電灯?ほい、怪獣弁当。」
ループ。
ラジオの部屋に戻る。屋根の上に上ると雪ですべって落ちていく。ざーっ。

と、いうのは母親の膝の上で寝ていて見た夢。

b.
気がつくと、ふたたびシグナルの音。
医者が辺りを見回すと、そこは股関節折返場。かなり遠くまで来た。
股関節ということは、この下は膝。
ちょうど落ちてきたコインを拾い、下に向かって、ポーンと放り投げ、深さをはかる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぽちゃん。
とても深いが、下には水がたまっているらしい。
「ようし治してやる」
膝に飛び込む医者。
落ちていく。灯台から落っこちたときに使った、バックルに仕込んだワイヤーを投げる。
何かに引っかかり、落下が止まる。
バックルをいじってワイヤーを巻き取る動作。そのうち、下に降りているはずが何かを引っ張る仕草に。
綱引きのような引っ張り合いの末に、捕まえたのは、小さな怪獣。
暴れるそいつを押さえ込み、フライパンでこんがり焼いて、サクッと切り分けているところに誰かが来たようだ。
フライパンをジャージャーいわせながら「懐中電灯?ほらよ。」
あっさり懐中電灯を差し出す。

その瞬間、水に飛び込む医者。あたりが青く染まる。
もぐった先にある栓をぬく。
水がざーっと出る。患者の膝の水が抜ける。

 と、いうわけで、医者は戻ってくる。
懐中電灯は水が入ってしまって使い物にならなくなった。


a.の部分が「さかのぼり」であり、b.の部分が「やり直し」である。
「やり直し」は、「さかのぼり」と縦横の方向が逆になっていることが多い。
縦のものを横にする、というのは手男でも使われた手法でもある。
縦に動くように見えるが、横に動く体感、というのが気に入ったらしい。
以下、a.とb.を対応させてみる。

a.拾ったコインを自販機に入れる。-b.拾ったコインは下に放り投げる。
a.電車移動する(水平移動)-b.飛び込む(垂直移動)
移動の手段は
a.自販機から出たお金で買った電車の切符-b.(自前の)バックルからワイヤー
その次に
a.灯台を登る(垂直移動)。-b.引っ張り合い(水平移動)
その結果、
a.弁当屋に誤解される-b.弁当屋に誤解されない。


a.パートには、今までの作品を思わせるアイテムも多く登場しているので、それを使って一部を深読んでみる。

ラーメンズは最初は楽しかった。
でも、それも失われ、自分は雪の中で1人ぼっち。孤独から逃げたいのに、また孤独になってしまった。
もうどちらに行けばいいのか分からない。誰か行く先を示して欲しい(懐中電灯=灯台)。
片桐さんに教えて欲しかった。
でも、自分の気持ちは伝わらなかった。灯台の最上階にはラジオ。懐中電灯が欲しいのに、かえってくるのは怪獣弁当。
寂しい。
やけになって自滅してみようかな。
親にもっと愛されていればこんなことにならなかったろうに。


・・・そもそも、拾ったコインを自販機に入れたところが間違いの元なのだ。
拾ったコインは下に放り投げるべきだったのだ。
彼はそう考えているらしい。
(俺は公衆電話を探して親に電話した方が良いんじゃないかと思うが。)

まあいい。
さかのぼってやり直すことで彼がうまくやれればそれで文句はない。
でも、ほんとにそんなにうまくいくものだろうか。
なんだか、机上の空論を聞かされているような感じが否めない。


ついでに懐中電灯について。
象に使うから必須のアイテムではあったが、懐中電灯はSPOTのときはあまり印象に残っていなかった。
ただ、SPOTのときは胃の中に忘れられたし、『THE SPOT』では水が入ったし、どちらにせよ使い物にならなくなる運命にある。
もう方向性見えたから懐中電灯は不要、ということと、行く先はない(「テーマはない」)のダブルミーニングかな、とか思った。
[PR]

by k_penguin | 2011-05-30 00:53 | エンタ系 | Trackback | Comments(9)

トラックバックURL : http://shiropenk.exblog.jp/tb/16398082
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by arancio at 2011-06-02 22:08 x
はじめました。ポツネン関係で検索してたどりつきました。
SPOT、THE SPOTと福岡で観ました。

THE SPOTで目新しかったのはお医者さんだけ、というのは同感です。1年経ってるので、全体としては楽しめましたが、アナグラムはつらかったです。会場は爆笑してる人が多くて、SPOT観てない人多いのかなと感じました。

お医者さんが新しいと感じたのは、効果音に多義性を持たせた点ではないかと思っています。footstepsのように効果音とマイムで見えない場面を想像させていたのを一歩進めて、効果音に多義性を持たせることで、観客が想像すべき場面をどんどん変え、ループの効果もあって、ストーリーが背景においやられ、シュールな体験をした気がします。記号によるコンテキストの改変、とでもいうか。ATOMの新噺が好きなのですが、落語と現実界を自由に行き来する点が似ていると思いました。
Commented by k_penguin at 2011-06-03 01:00
arancioさん、初めまして。
コメントありがとうございます。

アナグラムは、荒又ヒョウカン削ったのは正解だなと思いました。まあ、それだけです。
アナグラムとかシリーズ「ない」とかは、
やってる小林さんは面白いだろうけど見る側はどうなん?て感じです。
まあ客席は大爆笑だったけど。
SPOTはあっこまでウケてなかったので、不思議です。

>効果音の多義性
そういえば、ラジオの音-怪獣弁当-雨の音のコンポはあざやかでしたね。
マイムもとても綺麗で、シュールな話にすんなり引き込まれました。
まあ笑いはしなかったけど。
バックルのワイヤー巻き取るのが自然に綱を引っ張る動きに移行するとこが
特に気持ちよく綺麗でした。
Commented by arancio at 2011-06-06 22:59 x
お返事、ありがとうございました。

マイムの美しさ、で思い出しましたが、幕開き、明かりが完全に落ちていない状態でポツネン氏が下手に現れ、きれいにポーズを決めてから、暗転しました。これを観た時に、THE SPOTは美とか、型とかを追求するんだなと思いました。「ついていけない人は置いていく」宣言のようにも見えました。
Commented by k_penguin at 2011-06-06 23:58
舞台がミニマムだからどうしても1つ1つの動きや舞台装置が洗練されている必要があるのだと思います。
 あー…、もしかして、スタッフのシルエット切ったのもそれあるかも。
シルエットだけど、やっぱりふつーの人のふつーの動きで、美しくはなかったからなあ。
アイデアとしては良いと思ったんだけど。
Commented by K☆SAKABE at 2011-06-13 20:35 x
penguinさん

>さかのぼってやり直す
ですか?
そうですね、それで上手くいけばいいですけどね。
足元を照らす「懐中電灯」を求めても、「怪獣弁当」を出され続けてここまで来たのなら、もう「海中弁当」でも「怪獣伝統」でも「ドンと来い!」とはならないものなんでしょうか?
どちらにしても「懐中電灯」は壊れるわけで、大きな灯台(目標)さえあれば歩いていけるんですから。
自分では無い誰かに求めて、それが理解されないことなんて日常茶飯事。
だから、四の五の言ってないで膝突き合わせて話し合えって!

>舞台装置が洗練されている必要
視覚的に美しいのはいいんですが、ネタ的に美しいとは到底言えない最近のライブは、道具の作りが丁寧なだけに余計残念感がハンパ無い。
ハードはいいんだよなぁ。
後はソフトの問題なんだよなぁ。
Commented by k_penguin at 2011-06-14 00:22
>膝突き合わせて話し合えって!
 ラーメンズのことなら、そういえますけど、
ポツネンて問題意識がそこから離れて出しているという気がします。
片桐さんのことに限らず、客とのこととか、(或いは息子とか奥さんとか)、
そういう他人との関係全般についての話に抽象化されている感じ。

もともと引きこもり傾向のある小林さんですから、
「テーマはない」で手作業に集中する方が向いているんじゃないかなあ。
テーマがなけりゃ誤解もされないしね。

>視覚的に美しい
 非日常空間に遊ぶ感じの、雰囲気を楽しむ舞台というのなら、
それはそれで良いのですが、
なーんか雰囲気を楽しんでいるように見せかけて、その下で
あっぷあっぷしてるのがずっと透けて見えてるっていうのがね、
しかも、わざと透けさせているっぽいってのがね、
残念だと思います。
Commented by K☆SAKABE at 2011-06-14 18:54 x
>他人との関係全般
創作現場では自己主張が激しそう(現場に厳しい感じ)なんで、口に出した言葉が誤解されて解釈されるんじゃないかと思うんですね。
だから必要以上には極力語らないのかもしれません。
でも反省とかじゃなく、「なんか機嫌悪そうだから黙ってよう」とか「めんどくさそう」っていう理由でそうしてそう。(あら意地悪)

>テーマがなけりゃ誤解もされない
「いかにも」な展開が先細って客が「?」ってなるくらいなら、黙ってパントマイムとガジェットやってれば本人の「お察しください」が100%成立するんでしょうけどね。
Commented by k_penguin at 2011-06-14 22:33
ときどきお約束ギャグとして使われる
「何か嫌なことでもあったんですか」っていうフレーズが
よく表していると思うんですけど、
それ言うことでコミュニケーション切っちゃうんですよね。
(今もまだ言ってるのだろうか?)

>「お察しください」
 あれもほんとに察して欲しいと思ってるのかも
最近疑問になってきました(^-^;
Commented by k_penguin at 2011-06-20 11:42
自販機に入れるのがただのコインではなく、珍しい外国のコインとされている件についてのメモ。

なんで俺がこれを気にしているのかというと、
自販機に100円玉に似た外国コイン(多くの場合ウォン)を入れて、不正な反応を引き起こすことで商品や自販機内の返却金を盗む、
という手口は数年前流行ったものであり、
かなり悪質な手口として当時新聞をにぎわせたものだからである(今は自販機が改良された)。

なんとなく自販機に外国硬貨を入れたら釣り銭が大量に出る、
という話はそれを連想させるが、
その連想は作者の意図に沿うのか沿わないのかが分からないのである。

俺は「自販機にコインを入れる」行為を悪行を意味するものととらえているが(それが100円玉であっても)、
入れるのが100円である場合と外国硬貨である場合とでは悪質さに大きな違いがある。
外国硬貨を入れるというのは「何気なくやりました、」という言い訳がきかないほど犯罪性が高い。

なお拾った100円で自販機からジュースを買えば、遺失物横領1罪だが、
外国コインだと、遺失物横領に加え、ジュースの窃盗になる(2つは観念的競合)。

<< 『若き志願囚』(復刻版) 『THE SPOT』その2 王... >>