『これからの「正義」の話をしよう』

6月8日、読み終わったので追記。

最近のお気に入り番組、NHK教育『ハーバード白熱教室 サンデル教授のJUSTICE』の講義テキストを元にした本。
まだ読み終わってないけど、とりあえずご紹介。
サンデル教授は政治哲学の先生で、生徒との対話を通して授業をする「ソクラテス型」の講義をする。
内容は、功利主義やリバタリアニズム、逆差別の原理など。まだ見てないけど、同性婚の是非についてまで議論するらしい。
取っつきやすいし面白いが、やはり所詮政治哲学は難しいので、
  これを読めば政治哲学がすぐ分かる!
などと思ってはいけない。

番組も見てから読んだ方が理解が早い。
ちなみに、番組の英語版はネットですべて無料視聴できる。
http://www.justiceharvard.org/

本の推薦が宮台真司なのがちょっちむかつく。パターナリズムを(上から目線)と訳すな。

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学


追記 6月8日

読み終わりましたー。大体一日1章のペース。
第8章までは、功利主義やリバタリアニズム(自由至上主義)の批判を楽しい具体事例を交えながら語る。
カントはやっぱり難しいけど、すんなり読める。

ところが、9章で、

政治や権利を語るにも、道徳的、倫理的、宗教的な思想を取り入れるべきだ。個人の人権の制約原理の1つとしていままでの自然的義務、自発的責務に加え、
新しく「連帯の責務」というコミュニティのための人権制約原理を加えるのはいかがでしょ。

みたいなこと言い出して、10章で

今後の政治のあり方としてはコミュニティ全体で「共通善」の実現を目指す方向で、一つよろしくしてもらいたいもんです。

てな感じで、締めたもんだから、

   と、びっくらした。 
個人の自由を重視する今の主流の考え方からすれば、公権力が道徳や、宗教について一定の考えをとって政策を決める、というのは「禁じ手」だからだ。
しかし、そこはやり手のサンデル先生、魅力的に自説を語る。
彼が考えは、感覚としては、裁判官の「良心」は職業的な客観的良心ではなく、個人の主観的な良心である(両者は区別できないから)という団藤重光が取る少数説と同じと思う。
アファーマティブ アクション(逆差別)や生命倫理を巡る最近の問題を解決するには、道徳についての議論を避けてきた今までのやり方ではうまくいかないことなどは説得力あるし、
今の時代を価値観がないと嘆く者にとっては、「美徳」や「名誉」の復権は魅力的。
今後時代の流れはこっちへ行くヨカーン。
つか、最近の憲法学者(長谷部恭男や安念潤司など)が、政教分離原則は信教の自由と根本的に両立しない、と主張しているのはこのへんの影響だったのか。

もちろんサンデル先生は「共通善」つまり、何がコミュニティにとって「善い」ことであるかについて統一した結論が出るとは思っていない。
それはずっと議論し続けられることで、議論それ自体に価値がある。議論を通じて共同体意識が育つからだ。

・・・ということは、つまり、サンデル先生の毎回大盛り上がりの講義は、彼の学説の実践でもあったのだ。
みんなが考え、議論し合い、意見を述べた後はマイクを握って、期待を込めて先生の一言を待つ。
「ふむ・・・君の名前は?」


・・・まあ、現実が全部サンデル先生の講義のようにいけばいいけどね。
大半の市民は議論に時間を割いて「善い」市民になるよりも、
そんなに善くなくていいから議論の間中ビールでも飲んでいて、んで後で結論だけ教えてもらえばいいと思っているのだ。
サンデル先生は立派すぎて、我々一般市民がどんなにすごいめんどくさがり屋さんであるかを甘く見ていると思う。


なお、読み終わって改めて読んでみると、やっぱり宮台真司の帯のコメントはおかしい。
「米国リバタリアニズムは自由主義ではなく共和主義の伝統に属する。」
なんてどこにも書いてないし。
サンデル先生によれば、いわゆる「リベラリスト」は市場(経済的自由)については自由放任ではなく公的介入による配分を支持し、精神的自由関連については逆に自由放任の傾向を持つ。
つまり、コミュニタリアンのサンデル先生は、性的表現の公的規制に肯定的な(少なくとも新たな肯定できる理由を提示している)論者であり、宮台さんが最近好感度をあげた、例の「非実在青少年」都条例について、彼と反対の立場なのだ。
おかげで宮台さん、歯に物が挟まったような文章になってしまっている。本についての宮台さん自身の感想も書いてないし。

・・・なぜ早川書房は宮台真司に帯を頼んだのだろう・・・?

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by k_penguin | 2010-05-29 12:58 | エンタ系 | Trackback(4) | Comments(0)
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