続・埼京線に防犯カメラ   

2010年 04月 10日

JR埼京線が痴漢防止のための防犯カメラを「試験的に」導入したのが、去年の12月だった。
そしたら、今月4月早々、「試験導入で効果があったから」全編成に防犯カメラをつける、という。
埼京線の車内防犯カメラ、全編成に 「試験導入で効果」(アサヒ・コム)
4ヶ月しかたっていないのに、もう「効果」を認定したというその素早さに俺は驚いた。

ロンドンには連続テロ以降、防犯目的の街頭カメラが設置されているが、それによれば、犯罪数は防犯カメラ設置後しばらくは低下するが、数ヶ月で元に戻るそうだ。
つまり、防犯効果があるのは防犯カメラそのものよりも、防犯カメラを設置したというニュースの方なのだ。

今回の埼京線の「試験」の結果はYOMIURI ONLINEの記事によれば
警視庁によると、昨年都内で届け出のあった電車内での痴漢被害は、同線が全路線で最多の173件(月平均約14・4件)だったが、今年1、2月は計15件(月平均7・5件)とほぼ半減した。

と、いうもので、2ヶ月しかデータをとっていない。
しかも、「試験」は全部で33編成ある埼京線のうちの2編成(の車両の1両)についてのみ防犯カメラを設置したものである。
つまり、ほとんどの埼京線は今までとは変わらなかったのだ。
それで半減の効果というのは、防犯カメラそのものよりも、防犯カメラ設置のニュースが効いている、と考えても全然おかしくないと思うのだが。

なんだか、
試験以前に防犯カメラ導入は決定していた、
という香りがものすごく漂う。
…カメラ屋さんが暗躍したのではなかろうかね?
そーゆー目で見てみると、痴漢被害の件数をわざわざ月平均人数で比較したのもなんだか怪しく思えるし。
ちなみに朝日の方は、
警視庁によると、埼京線では今年に入り痴漢被害が大きく改善。1~2月の強制わいせつ事件は3分の1に減ったという。

だそうで、なぜか迷惑条例違反事件の数は無視だ(痴漢は法的には強制わいせつの場合と迷惑条例違反の場合がある)。



ところがこんなアヤスイ試験結果でも、大多数の人は防犯カメラ導入に賛成らしいのだ。
YOMIURI ONLINEの先の記事によれば「電車内へのカメラ設置への賛成が89%。「プライバシーが侵害されるか」との問いには62%が否定」。
まあ、俺は実家に行くときしか埼京線を使わないのであまり関係ないし、みんなが良いというなら、別にそれで良いんだろうが、
しかし、効果がない「防犯」カメラに見張られていて、プライバシーの不当な干渉とが思わないのだろうか?
軽く疑問を抱いて、そんなことをつぶろぐという過疎Twitterみたいなもんに書き込んだら、けっこういろいろなやりとりがあった。

そこでわかったのは、大体の人は、「オープンな場所では個人にプライバシー権なんて無い」
と、考えているということだ。
自分の方が少数派とわかった以上、
オープンな場所でも個人にプライバシー権は「ある」、という俺の考えの方を説明しなくてはなるまい。

この考えは法律を学んだことがある者にとってはむしろ「ふつー」の考えである。
なぜかというと、最高裁が「ある」って言っているからだ。
そして「ある」といっても実は結論は「ない」と余り変わらなかったりする。
オープンな場所でもプライバシー権はあるけど、人権という言葉から一般にイメージされるほど丁重な扱いを受けているわけではないからだ。
人権にもいろいろ格付けがされているのだが、「オープンな場所でのプライバシー権」なんて最下層にいると言ってもいい。
なんだったら人権なんて立派な言葉は気恥ずかしいので「利益」と呼ばれる場合すらある。
これが自分の部屋の中にいる場合のプライバシーとなると、格付けはもっと上に行く。人権の格付けは人権の名前ごとになされるのではなく、もっと細かく分類されているのだ。

そんなに低いのなら、じゃあ別に「ない」でいいじゃん。
て、思うところだが、これが「ない」と「ある」では大違いなのだ。

仮に、埼京線の車内にプライバシーは「ない」としよう。
こちらに守るべき権利がないのなら、論理的に権利侵害という事態は起こらない。
したがって、頭上のどこにどんなカメラがついていようと全く問題ない。
それが防犯カメラだろうが、どこかのけったいな埼京線マニアが自分で眺めるために勝手に設置したカメラであろうが構わない、ということになる。
痴漢もののAV作品の導入部分に使うため、混雑した車内の1カットがほしーなー、なんていう撮影も、そこで演技が始まらない限りOKだ。

こういう撮影も全部問題ないと思う人もいるかもしれない。
しかし、googleストリートビューに通行人として写りこんだり、家の表札が映ったりするのも嫌がる人がまだ多い世の中では、すべてを許すほど心が広い人はまだそういないのではないかと思う。
みんな、少なくとも何らかの「正しい」理由を必要としていて、全くフリーに撮影を許しているわけではないのだ。

たとえちょびっとであれ、こちらに守るべき人権(or利益)が「ある」と考えれば、それに相応するだけの「正当性」が要求されることになる。
たとえば、痴漢防止に役立つかどうかの実験のためのカメラであれば許せる。とか。


「オープンな場所では個人にプライバシー権なんて無い」と主張する人も、その反面、防犯効果について口にしていたりするから、多分無意識のうちに自分の守るべき利益と利益を制限する正当性を秤にかけているのだと思われる。
それらの無意識的な作業を俺は意識的に行っただけなのだが、
意識的に行ったがゆえにすっごく気になるのが、
今回の「試験」がおそらく形式的なものに過ぎなかったことなのだ。

俺は「痴漢防止に役立つかどうかの実験」だからカメラを許したのだ。
その実験を真面目に行わず、なし崩し的に防犯カメラを導入した、ということは、「正当性」がないのに、あると偽って防犯カメラを導入したということになる。
そこで嘘をついたという行為自体の不当性が俺は嫌なのだ。
防犯カメラの映像が悪い目的に使われたり、どっかに横流しされたりするなんて考えられない、と思う人もいるだろう。
しかしJR東日本は少なくとも、既に1度嘘をついているのだ。2度目がないとは言い切れない。

今回防犯カメラを全編成に導入することにより、結果的に痴漢が減って、良い結果が生じるかもしれない。
結果が良ければ別に導入の手続にちょっとばかり嘘が混じっていても、いーじゃん
って考えも確かにあり得る。
でも、その「嘘ついても、まあいーじゃん」って部分が積み重なっていくと、いずれ災いが起こるのではないか。

そーゆー気が俺にはするのだ。

c0030037_15284135.gif

JR東日本HP「埼京線における車内防犯カメラの設置について」より。
埼京線における防犯カメラ設置図
(なんか片寄ってるんだが、もしかして今後カメラ増やすつもりとか…?)


追記 関連記事
朝日新聞「争論」「監視カメラ社会」
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by k_penguin | 2010-04-10 15:36 | ニュース・評論 | Trackback | Comments(2)

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Commented by uneyama_shachyuu at 2010-04-10 20:13
いわゆる肖像権や強制処分との関係、プライバシー権と制限目的ての関係で、確かに「ある」けど「制限してもしかるべき」という結論で「ない」というのと同じになっていますね。ただ、憲法というよりは、どちらかというと、憲法と刑事訴訟法との両方を勉強した人でないと、感覚が湧かないかもしれませんね←監視カメラにアカンベーをするのが楽しみの畝山には、プライバシー権の他、人権の主体たる地位がないと解されるかも(笑)
Commented by k_penguin at 2010-04-10 21:17
>憲法と刑事訴訟法との両方を勉強した人でないと

実は今回のこの記事は、
適正手続(Due process)を一般にもわかるように説明する、
というのが目的でした。
だから憲法よりか刑訴っぽくなるのかもしれません。
やってみるとやはり難しいですね。どうしても記事が長くなりますし。

個人的には監視カメラは気にしないけど、
エレベーターの中についたときは、
エレベーターの中で1人きりのときに踊る、
という密かな趣味が奪われたので悲しかったです。

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