痴漢冤罪の諸ジジョーを想像する   

2009年 04月 18日

14日に出た最高裁の強制わいせつの逆転無罪判決についてちょこちょこ調べていたら、こんなん出てきました。
無実の訴えは法廷闘争に移り、1、2審とも弁護士から「大丈夫」と無罪判決の太鼓判を押されたが、実刑に。控訴審判決後、裁判長から「まだ最高裁がありますから」とまで言われた。

引っかかったのは、裁判長の「まだ最高裁がありますから」の方。
弁護士が無罪の太鼓判を押すのは当たり前。無罪が取れると信じて仕事をするのが弁護士だから。
でも裁判官は審判員だ。上告するかどうかは被告人次第で、裁判官が上告を匂わせることをいうのは審判員という立場とはしっくりこない。
つか、上告勧めるんなら、無罪判決書けよって話で。

  と、ここで、ふと考える。
  無罪を出したいけど、出せない事情がある、のでは。

・・・はーい、ここで国策とか陰謀とかいう単語に飛びついた奴、スクワット100回ねー。

冤罪って誰も作りたいと思っていなくても生じてしまう場合が多々あって、
で、それが生まれる背景や構造はいろいろ複雑で、しかもケースによっていろいろだから、俺がここで考えただけで、わかるような簡単なものではないんだけど、
ちょっとさいばんちょの言葉から想像してみたことってことで。

まず、上告を匂わせるということは、無実かもしれないと思っていたということ。
ということは、冤罪を生み出す理由の1つとしてよく検察官の起訴自体に有罪の推定が事実上働いていることがあげられるけど、このケースにはこれが当てはまっていない。ということ。
検察官以外の関係者は、証人、つまり被害者だ。
この事件は被害者の証言以外に証拠がないという、痴漢にありがちのケースだった。
そして、証言自体には矛盾などの目立つ不備はなかった。
なお、これについて被害者は一度駅に降りたのにまた被疑者の傍に戻った、ということが証言の信用性がない理由っぽく報道されているが、
大勢の客に押されてまた同じドアから入ってしまった、という反論がされているようだし、
そもそも3年間あーだこーだ検討しあって、まだ分からないものを
報道された事実の断片から野次馬が正しく認定できるわけはない。
証言の証明力については、被害者、被告人、どちらの言い分も一通りありうる、程度のものと考える。

で、どっちもありえそう・・・という状態になったら、裁判官は何を考えるか。
教科書的にいえば、無罪推定原則になるわけだけど、
それとは別に現実問題としてこの事件でこういう判決を出したら、どういう事が起こるかってことも考えないわけにはいかない。
有罪を出したら、被告人はどうなるか。
そして
無罪を出したら、被害者はどうなるか。

仮に、無罪を出したら被害者は勇気をふるって痴漢を告発したのに、それを大人達に嘘つき認定されたことになる
(一通りのことを自ら証言したらしいので少なくとも本人は本当に被告人に被害を受けたと思っているという印象は与えているであろう)。
証拠が弱いので、検察官上訴は無いことも考えられ、そうしたら無罪は確定する。
被害者は17歳(高裁判決の時点では18,9だろうが)。ここで裁判で自分を否定されることにより受けるトラウマは大きい。
それを抱えたまま満員電車に乗り続けなければならないであろう期間も相応に長そう。

これに対して有罪を出した場合、被告人だって裁判で否定されることによるダメージは大きいが、ぶっちゃけ大人の男だ。娘さんよりは打たれ強そう。
うーん、ごめん。ここは若い者に譲ってもらえないだろうか。
上告審もあるし・・・・。

と、こーゆー算盤が全くなかった、とはいえないんじゃないかな、と。


それから、さいばんちょの言葉からは、最高裁なら無罪が出るかもしれない、というニュアンスも感じられる。
一,二審と最高裁で、どう状況は変わるのか。
最高裁でだって無罪が出れば、被害者のお嬢さんは傷つくだろーに。

ま、それもそうなんだが、最高裁の判決が出る頃には高校生も相応に大きくなっている。20歳くらいだよね。一応成年だよね。
で、事件も過去のことになりつつあるだろう。
おそらく最高裁では被害者自ら法廷で証言はしないだろうし、自分が直接関わらない分だけ、問題が遠のくってゆーか、まあ、そーゆー感じで、多分ダメージも少なくなると思うんだよね。

それに対して、被告人にとっては常に現在の闘いだから有罪で受けるダメージは以前と変わってないよね。
・・・つーわけで、無罪は出しやすくなると思うんだよね。
多分だけどね。


本来証言の証明力の話なのに、何かもうそーゆー次元じゃなくなってるんですけど。
でも、そういうことを全く考えないわけにはいかないんじゃないかな、と思う。
だって被害者の証言と被告人の主張しか判断材料がないんだもん。
証言を否定しただけで、人間を否定したわけじゃないのに、どーしてもそんな感じになっちゃうでしょ。

他に客観的な証拠があれば、まだこんな、人の人生を天秤にかけるような真似しなくて済むはずなんだよね。

マスコミはおおっぴらに語らないが、
痴漢冤罪は実質的に
痴漢冤罪の苦しみ(男性)vs痴漢被害の苦しみ(女性)、だと思う。
今回の逆転無罪判決だって喜ばれているが、被害者の人違いが産んだものだとしたら、被害者にとって、それは迷宮入りを意味する。

しかし、この2つが対決しても決して和解はありえず、不毛な闘いが激化するだけだ。
だからこの2つが直接対決してしまう悲劇をなるべく防ぐために、周辺システムである
刑事裁判を見直し、捜査のあり方を見直し、そして通勤ラッシュの解消を図るのだ。
そして、より直接的に対決を防ぐために、社会の雰囲気は、禁句を作る。
男性が言っちゃいけないのは「痴漢くらい少しは我慢しろ。」
女性が言っちゃいけないのは「冤罪くらい少しは我慢しろ」。

それらは確かに賢い人が言う言葉ではないが、
それでもフツーの人ならちょっとは口にしたくなる言葉だ。
その言葉が言えないことは、人を面白くない心持ちにするので、
話はいよいよめんどくさくなってくる。

うーん、やっぱ、余裕の無さはいろんな不幸につながるのかもね。


追記
モトケンさんの関連エントリ
痴漢冤罪と最高裁無罪判決と痴漢防止
[PR]

by k_penguin | 2009-04-18 01:27 | ニュース・評論 | Trackback | Comments(6)

トラックバックURL : http://shiropenk.exblog.jp/tb/11349696
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by uneyama_shachyuu at 2009-04-18 22:05
控訴審の裁判官がこう言った…というのは、色々なことが含まれているとワタクシも感じますね。色々と天秤にかけたというのと、変だと思ったけれど、今までの痴漢事件の判決の出し方を自分で変えるのは怖いので最高裁に押し付けたとか、色々あるんじゃないかな~。とにかく、裁判の現場で聞けなかったので、ニュアンスが分からないですけど、その女の子が「いい加減な供述をした」ニュアンスでの無罪判決のような感じになってしまっているので、操作のあり方そのものまで変わってしまうかもしれませんね…とはいえ、鉄道警察にボコボコにされている痴漢犯人をみた経験者としては、ああやって我慢強く現場を押さえてボコボコにしてほしいです(笑)。
Commented by k_penguin at 2009-04-18 22:58
>今までの痴漢事件の判決の出し方を自分で変えるのは怖い

それもあるんじゃないかな~、と思いました。
この記事のテーマから少しずれるから書かなかったけど。

>女の子が「いい加減な供述をした」ニュアンスでの無罪判決のような感じになってしまっているので、

人違いという認定をしなかったのは、多分
女の子が絶対人違いじゃない、私は触られた手が繋がっている胴体についているネクタイをつかんだ、ずっと見ていた、的なことを主張し、
その点で疑いを挟むことが出来なかったんだと思います。
何つっても被害者証言しかないんだから、被害者が絶対だといえば反論は出来ず、
証言まるごと疑わしくするしかなかったんじゃないかと。

>鉄道警察にボコボコにされている痴漢犯人

ワタシも見たかったなー。
Commented by smashige at 2009-04-18 23:08
うーん。
要は男にとってみれば、裁判官の同情をいかに引き出せるかってことなのかなー??
植草氏はあんなケンカ腰じゃ、脈なしだな。
Commented by k_penguin at 2009-04-18 23:22
んー、「同情」っていうと
犯罪認めて情状ねらいの場合みたいな感じするから、ちょっと違うような・・・。
やっぱ基本的に男は不利だと思います・・・。

植草さんはやってる証拠がふつーにそろってるからなー。
あれで否認じゃ、脈なしだよねー
まあ、もう裁判はポーズだけだろうから、いんじゃねーのー
(投げやり)
Commented by smashige at 2009-04-22 11:14
モトケンさんのリンク見ました。
>痴漢冤罪の苦しみ(男性)vs痴漢被害の苦しみ(女性) のバランスが(一般論的には)取れていないように思えます。これは、被害者の責任ではなく、捜査側の問題です。
とあるのは、ショックというべきか、なるほどというべきか。。
ペンギンさんがご指摘のように、在宅捜査が一般的になればいいですよね。っていうか、普通に考えれば、駅からそのまま勾留っていうのはやっぱりおかしいような気が・・人殺したわけじゃなし。
Commented by k_penguin at 2009-04-22 18:15
今の捜査のあり方が、簡単に男性を犯人と決めつける傾向にあるのは否定できないと思います。
法律の建前では逮捕というのは、証拠隠滅を防ぐために行われるものであって、
自白へのプレッシャーをかけるためにするものではないのですが、
この場合の逮捕は、犯人であることを前提として
自白するようプレッシャーをかける効果が期待されているのではないかと思われます。

痴漢だと言われた以上、捜査する必要は認めなくてはいけませんが、
いきなり犯人と決めつけた扱いをされるのはやりすぎです。
在宅捜査にするというのは、
最初に実現できそうな現実的な落としどころだと思います。

<< 『TOWER』2F タワーマニ... 調書漏出事件裁判のいろんな勝ち負け >>